2025年春夏シーズンに向けたミラノ・ファッションウィーク(MFW)が17日、幕を開けた。初日から人気ブランドのショーが続いた。
フェンディ
フェンディの会場は、メンズでもレディースでも近年のMFW期間中に必ず1度はどこかのブランドが使うイベント施設「スーパースタジオ・マキシ」。ミラノ中心部からはやや南に外れるが、中央駅などとつながる地下鉄2番線の駅と近く、アクセスは良い。
場内に入ると、俳優の川口春奈さんが既に席についていた。ここ数シーズン必ずフェンディのショーで見かけるので、聞くと「4度目です」という。フェンディのスタイリングについては「毎シーズン色づかいが素晴らしく、洋服のディテールに美しさがあり、かつ実用性も兼ね備えている」と評した。気になるアイテムについては「アイコンでもあるレザーです」。この日、本人が着用していたのもレザーのドレスだった。
また、韓国の人気ドラマ「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」の主演などを務めた、スター俳優のソン・ヘギョさんも来場。大勢の人々に囲まれ、フォトグラファーたちが押し合いの状態に。
ショーが始まると、グレーやブラウンの中間色と、透ける素材に施した刺繡(ししゅう)のアイテムの組み合わせに透明感の演出を感じさせた。シルエットは比較的ジャストサイズが多く、ドレスは丈が長い一方、上下でスタイリングする際には非常に丈の短いボトムスでアクセントをつける。そうした変化を見せながらも、リアルクローズとして成立する服が多かった。
BGMには映画音楽での評価も高いマックス・リヒターの曲が使われ、アーティスティック・ディレクターであるキム・ジョーンズの文化的志向がうかがえた。端的に言って、幕開けにふさわしいハイレベルなショーだったと思う。
会場を出ると、日本のファッションアイコンでミラノやパリのファッションウィークで各ブランドのショーを見て回っている双子モデルユニットAMIAYAがフォトグラファーたちに囲まれていた。私に気づくと「あ! 今シーズンもよろしく!」と笑みを見せた。2人は約10年前、最初にファッションウィークを訪れた頃からマネジャーを帯同せず、自分たちで手配した現地の運転手の車で移動しながら車内で着替え、訪れるブランドの服をまとう、コレクションサーキットの名物コンビだ。
マルニ
フェンディのショーを終えると、これまた人気ブランドのマルニの会場である同ブランドのショールームへ。主催者が用意したバスで約30分。AMIAYAは既に私よりも先に着いているのみならず、2人そろって全身マルニのコーディネートが完璧に仕上がっているのだから、さすがとしか言いようがない。
中へ入ると椅子が所狭しと、様々な方向に並べられていた。分かりやすいランウェーはなく、この椅子と椅子の間をモデルが歩くのだろうとは分かったが、午後4時30分に予定されていたショーは一向に始まる気配がない。中央に置かれたピアノの前に人がやってきたのは午後5時27分。1時間遅れでようやく始まった。
勢いのあるブランドは自由だと思う。タイトフィットなシンプルなドレス、オーバーサイズのジャケット、中世の貴族のような大ぶりの帽子。色も柄もサイズもモデルの性別もバラバラで、いわばクリエーティブ・ディレクターのフランチェスコ・リッソが「マルニ」というキャンバスを使って好きな服を次々と描いたようなショーだった。
マルニは1994年にコンスエロ・カスティリオーニによって創業されたが、その後イタリアの大手グループの傘下になり、2016年からリッソがデザインを手がけるようになった。記者は今でもコンスエロ時代の、やや控えめで上品な感じのマルニが好きだが、時に狂気を感じさせる現在のマルニにも魅力を感じている。そして、このブランドはランウェーに出現するショールックの要素を落とし込んだコマーシャルラインの出来がすこぶる良い。ゆえにファッションピープルだけでなく、広く支持される。ユニクロとの協業が好例だ。
思えばメゾン・マルジェラも同じグループだが、どちらも資本が変わり、伝説的な創業デザイナーから現デザイナーにバトンタッチして以降、広く浸透した。「服好きだけに売れる服」は業界内では尊敬されるが、ビジネスとしての成功は、その世界の中から出て初めて手に出来るものだ。
ショーを終えた後、日本から招かれた俳優の上杉柊平さんに感想を聞くために取材待ちの列に並んだ。WWD JAPANの村上要編集長の後に話しかけると、「え? ここで朝日新聞ですか? 朝日新聞??」と困惑気味の2度聞き。他は名だたるファッション誌とファッションメディアのみで、一般紙がMFWの取材をしているとは思ってもみなかったようだ。すかさずマルニジャパンの広報チームでトップを務める女性が「実は朝日新聞さんは毎回ミラノにもパリにも来ていますし、インスタグラムやデジタルの記事も面白いんですよ」とフォローしてくれた。
ショーについて上杉さんは「シンプルな会場で複雑な見せ方をしながら、ちゃんと服に目がいく、マルニらしいショーだったと思います。それは正しさともいえるのでは」。難解なコレクションだったが、上杉さんの対応から、ファッションが好きで、詳しい人なのだと分かった。
ミラノでもパリでも、ジャーナリストやバイヤーは公式スケジュールに沿って移動する。次のMSGMの会場へは地下鉄のアクセスがあまりよくなく、20分近くかけて歩いて行こうか迷っていると上杉さんの取材で一緒だった村上編集長が「(車に)乗っていきますか?」と助け舟を出してくれた。各社とも人数の少ないメンズのMFWやパリ・ファッションウィーク(PFW)ではよくある助け合いで、かつて私も村上編集長もメンズを担当していたことから親交があり、有り難かった。複数人態勢のWWD JAPANは過密スケジュールのミラノではハイヤーを借りているのだ。確かに弊社の場合は常に1人で回っており、重要なイベントが同時間帯に重なってもどちらかを諦めるほかない。
MSGM
そんなわけで村上編集長と木村和花記者のWWD JAPANコンビの車に同乗させて頂き、MSGMの本社で開催されているプレゼンテーションに。場内には海に見立てた青い砂利が敷かれ、その上に服が並べられていた。腰の部分の着物のような帯が印象的なスタイリングは、インテリアデザイナーのマリオ・ベリーニ作の椅子からインスパイアされたという。色使いやスパンコールの装飾、キッチュな柄にはミッドセンチュリーから受けた影響を感じた。
18日にはジル・サンダー、エトロなどのショーのほか、「クワイエット・ラグジュアリー」のトレンドで注目されているブルネロ・クチネリのプレゼンテーションなど、有力ブランドの新作発表が続く。(編集委員・後藤洋平)
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