熊本に拠点を置く演劇集団『ゼーロンの会』。ひとつの作品を1年かけて稽古し、迫力ある舞台を作り上げています。新たな公演を控えた出演者たちに話を聞きました。

闇に包まれた能場に鬼気迫る声が響いていました。

2023年10月、菊池市で上演されたシェークスピア劇『HAMLET(ハムレット)』の一幕です。

演劇集団ゼーロンの会は、おもに古典作品を上演しています。

【ゼーロンの会 上村 清彦 代表】
「古典に身を預けて、自分たちを鍛えるというか、古典はヤスリみたいなものだと思っているので、それで磨き上げるというか(古典は)無限に演出ができる」

菊池市出身の上村さん、熊本県指定重要文化財である、この『菊池松囃子能場』で作品を上演することが長年の望みだったといいます。

2022年から2年続けて、この伝統ある能場でシェークスピア劇を上演してきました。

ひとつの作品を1年かけて稽古し、公演はわずか1回か2回。研ぎ澄まされた迫力の舞台が観客を魅了します。

【観客】
「こんなに迫力があって、すごいものだとは思わなくて、すごく感動しています」
「毎回すごい迫力で今回も涙が出るくらいの迫力で、本当にいい時間でした」

【本妙寺 池上 正示 住職】
「素晴らしかったです。心が揺さぶられました。この風もかえって鬼気迫る舞台に華を添えてくれたみたいで」

【一般財団法人熊本県芸術文化振興会 吉丸 良治 理事長】
「素晴らしい演劇でした。かねての努力がよく分かりました。ありがとうございました」

【ハムレット役 中村 朋世さん】
「それぞれの役者がいつもとは違う間を取ったり、役柄に別れを告げるようなゆったりとした時間だったと思います。私もやっとハムレットを墓に埋めてあげられた感じです」

【ハムレットの恋人オフィーリア役 吉永 遥香さん】
「(これまでの中で)一番の演技ができましたし、全部出し切るということが達成できたかなと思います」

【ゼーロンの会 上村 清彦 代表】
(クライマックスで風が強くなりました)
「あれは仕込みです(笑)よかったですね。1年間、心血を注いだので、最後は神様が僕らの望みをかなえてくれたかなと思います」

9月、熊本市西区にある稽古場を訪ねました。新たな作品の上演を控え、稽古が熱を帯びていました。上演する作品は『フェードル』。17世紀のフランスの劇作家ジャン・ラシーヌによる古代ギリシャを舞台にした悲劇です。

【ゼーロンの会 上村 清彦 代表】
「一言で言えば『禁断の恋に取り憑かれた女の情念の劇』。主人公を超えた力が主人公に取り憑いて、破滅させる物語」

アテネの王テゼーの後妻・フェードル。義理の息子・王子イポリットに恋心を抱き、その思いにあらがい、憔悴していく。

そこに王テゼーの戦死の知らせが届き、フェードルは王子イポリットに抑えきれない秘めた思いを告白する。

情熱が、理性がぶつかり、それぞれの恋に身を焦がす者たち。

膨大なセリフの量、2時間31分にも及ぶ作品に8人のキャストが挑みます。さらにバイオリンの生演奏が息詰まる舞台を盛り上げます。

愛憎渦巻く悲劇の主役・フェードルを演じるのは、日吉 夏美さんです。普段は歯科衛生士として働いています。

【フェードル役 日吉 夏美さん】
「言葉の力とか意味に負けないエネルギーをフルパワーで演じること。そして、フェードルの内側から湧き出る言葉や表情にやりがいを感じています。働き始めたら必ず演劇をやるぞと心に決めていたので、歯科衛生士という仕事を脱ぎ捨てて、稽古場に来るわけですが、演技をすることでエネルギーを得ている感覚です」

【義理の息子イポリット王子役 中村朋世さん】
「きらびやかに表現されがちな愛情とか人に対する執着や来いみたいなものが呪いのように描かれている作品だと感じていて、心の向きを決めきれないというか、こうだったら楽なのに、こうだったらいいのにという方向に決して行かない恋の神様みたいな、悪魔みたいな存在がいて、すごく面白い作品です。このゼーロンの会の演劇は楽しんでいただくというよりは胸に一つ傷を抱えていただくための芝居、情念のぶつかり合いを描いて、何かとんでもないことが起き続けていることだけは絶対に伝わると思うんです。ぜひ傷つきに来てくださいという感じです」

【ゼーロンの会 上村 清彦 代表】
「二間(約3.6メートル)四方の(大道具のない)素舞台の上で、あの空間で役者がどれほどの世界に到達するのか、全身全霊で言葉を発する、全身全霊で動く、そのことで到達する世界を感じてほしい。あわよくば共有してほしいと思います」

絡み合う情念を鋭く描くゼーロンの会演劇公演『フェードル』は9月22日(日)、熊本市男女共同参画センターはあもにい多目的ホールで午後1時開演。そして、10月6日・日曜、菊池市隈府の菊池松囃子能場で午後5時半開演です。

【フェードル役 日吉 夏美さん】
「この作品のエネルギーをぜひ感じに来てほしいと思います」

(公演情報)
ゼーロンの会 演劇公演『フェードル』
2024年9月22日(日)午後1時 開演
熊本市男女共同参画センター はあもにい 多目的ホール(熊本市中央区)
全席自由/前売り3000円 当日3500円(税込み)

2024年10月6日(日)午後5時半 開演
菊池松囃子能場(菊池市隈府)
全席自由/前売り2000円 当日2500円(税込み)

問い合わせ/090-9583-8061(ゼーロンの会)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。