TBS日曜劇場枠で放送する『海に眠るダイヤモンド』。神木隆之介を主演に据え、1950年代の端島(長崎県)と現代の東京を結ぶストーリーが描かれる。物語の舞台となる端島は、長崎港から船で約40分のところに位置する、日本近代化の遺構として2015年に世界文化遺産に登録された人工の島。
岩礁の周りを埋め立てられて造られた海底炭鉱の島には、日本で初めて高層鉄筋コンクリートのアパートが建てられた。最盛期には約5300人もの人が住み、当時、世界一ともいわれる人口密度を誇るほど。さらに、端島炭鉱の石炭はとても良質で、日本の近代化に大きく貢献した。

そんな端島を連続ドラマで映像化するのは初めてのこと。『アンナチュラル』『MIU404』などの連続ドラマ、そして興行収入50億を超えたばかりの映画『ラストマイル』でもタッグを組んだ、脚本・野木亜紀子さんと監督・塚原あゆ子さんが、本作で描く時代背景や新たな挑戦について語った。

1950年代の端島を描くため行った1年の綿密な取材

――制作にあたって、かなり取材を重ねられたそうですね。

野木:脚本執筆のため、昨年の夏頃から1年くらいかけて取材をしました。塚原さんとプロデューサーの新井さんは他作品の制作もあり事前取材の参加が難しかったのですが、取材が十分にできないまま描くことはどうしても避けたかったし、1人での取材には限界があるので、長崎県出身の林啓史監督(『いだてん~東京オリムピック噺~』など)に協力をお願いしました。実際に長崎を訪れて元島民の方々への取材を行ったのですが、80代の方が中心で皆さん長崎弁を話されるので、よそ者の土地勘もない私だけで取材に臨んでいたらかなり苦労していただろうなと思います。林さんがいなければ今回の作品は成立していません。

――最初に端島に訪れたのはいつ頃ですか?

野木:実は端島が世界遺産に登録される前に、一度プライベートのバイク旅で訪れたことがありました。当時はまだ観光地化されておらず、「軍艦島ミュージアム」などもなかった頃。なので、島には上陸したのみでした。二度目は新井さんとたまたま訪れて、元島民の方のガイドを聴くことができ、「これはドラマになるかも」と感じました。島には水源がなく生活がとても困難で、今では考えられないような環境での暮らし。そんな状況の中を生き抜く人たちの姿は、今を生きる人たちにどう映るのかなと思ったんです。このとき新井さんと訪れていたから今回の企画が生まれました。

――日本初の鉄筋コンクリート造りの集合住宅があった端島。建物などの印象はいかがでしたか?

野木:今では本当にボロボロになっていますが、コンクリートの塊がしっかり残っていて、そのビジュアルのインパクトがすごかったです。ただ、ドラマとして当時の端島の風景を再現するには、日本中から似ている場所を探して合成する必要があるわけで……塚原さんが「そもそも似ているところがない!」と苦心しています。

塚原:そうなんです。今まで多くの作品でロケ地を探してきましたが、今回は特に頭を悩ませています。広さでいえば、新宿駅ほどの面積にさまざまな施設が凝縮され、約5000人もの人が集まって暮らしていた端島。そんな特殊な場所は現代には存在しないので、どこで撮影するにしても何かを付け足さないと成立しないんです。

無人島を世界一の人口密度を誇った島に蘇らせる――塚原監督が挑む新たなCG撮影の挑戦

塚原:いつも美術部さんが新しく出来上がった台本を見るとき、まずは香盤表を広げて柱書きを確認するのですが、新しい柱書きが出てくると一度台本を閉じて天を仰ぎ、一息ついて「どこでやるんですかこれ…?」って(笑)。「…考えよう!」と言いながら、みんなで知恵を振り絞っています。でも、『ラストマイル』も同じチームで乗り越えたので、本作もなんとかなると信じています!

野木:台本は全て仕上がっていますが、現代に存在しない風景を生み出すために日本各地で撮影をしているので、効率的に進めないと時間が足りない。そんな厳しい撮影現場では、スタッフさんたちが映像を作るために奔走し、総監督の塚原さんが指揮を執りながら一丸となって制作してくれています。
小さな土地に高層ビルが立ち並び、当時、世界一の人口密度を誇った端島がどう映像化されるのか、私自身も仕上がりが本当に楽しみです。

長崎・端島、炭鉱夫、エネルギー革命、そして職業差別。本作で描かれる“職業への誇り”とは

――お2人の作品では、普段は見過ごされがちな存在にスポットを当てることが多いと思いますが、本作ではその辺りをどう描かれていますか?

野木:取材を重ねる中で感じたのは、元島民の人たちの「端島愛」です。みなさん当時の苦労は語りながらも端島の出身であることに誇りを持っている。その一方で何十年もの間、出身を隠している方もいると聞いて。石炭なくしては成り立たない時代だったのに、炭鉱一般に対して差別的な目線もあったんですね。そうした視点は、主人公の鉄平が故郷の端島を大切にする動機としても自然だろうと、ドラマの中でもそのまま描いています。

塚原:本作では、エネルギー革命時代の職業差別を捉えていますが、過去にも現代にも職業に対する差別や偏見は残念ながら存在します。しかし、誇りを持って仕事をしている人たちにとって悲しいこと。どの職業にも、一緒に働く仲間、やり遂げる楽しさなど、自分の職業を誇りに思える鍵があるはず。そう考えると、今回描いている炭鉱の島で生きていた彼らがどんな表情で生きていたかが、1つの答えになっていくと思います。そこが優しく伝わるように、“職業への誇り”というものを描きたいと思っています。

野木:本作は取材に基づいたエピソードが多いのですが、キャラクター1人ひとりは誰かをモデルにしているわけではありません。あくまでフィクションなので、フィクションの事件が起こったりもします。1955年から閉山までの端島の史実をベースに、そこで生きる人々を描いた群像ドラマとして楽しんでいただけたらうれしいです。
長期間に及ぶ取材を重ね緻密に練られた脚本と、それを最大限視聴者に届けるために細部まで妥協なく工夫された演出。破格のスケールで制作が進む映像はもちろんだが、スタッフがクリエイターとしての誇りを持って作り上げる温かい物語が、現代社会を優しく包み込むのが待ち遠しい。

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