17日発売の雑誌「モーニング」に掲載された人気漫画「社外取締役 島耕作」(弘兼憲史・作)に、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市辺野古への移設工事に抗議をする人たちが日当を受け取っている、との表現があった。SNS上などでは、漫画が真偽不明のデマを広げているとの指摘が上がった。講談社は21日、編集部と作者の連名で声明を発表。当事者から確認を取らずに伝聞のみで掲載したとしてお詫(わ)びし、単行本掲載時には内容を修正するとした。

 問題となったのは、沖縄を訪れた主人公の島耕作が、ゴルフの後に食事をしながら辺野古を見渡す場面。埋め立て工事の現状を解説する登場人物の女性が「抗議する側もアルバイトでやっている人がたくさんいますよ」「私も一日いくらの日当で雇われたことがありました」と話す様子が描かれた。

 雑誌には「この漫画はフィクションです。実在の人物、団体名等とは関係ありません」と書かれているが、作中には「米軍の辺野古埋め立て地」「普天間飛行場」と現実に存在する具体的な固有名詞への言及がある。

 声明によると、作者と担当編集者が取材で沖縄を訪れた際、「新基地建設反対派のアルバイトがある」と複数の県民から伝え聞いた話を作品に反映させたという。だが、「あくまでこれは当事者からは確認の取れていない伝聞」で、断定的に描写をしたことや編集部としてそのまま掲載したことに対し、「読者の皆さまにお詫びするとともに、編集部と作者の協議の上、単行本掲載時には内容の修正をいたします」とした。弘兼さんは21日、朝日新聞の取材にも裏付けが不十分だったことを認めた上で、「報道として出したわけではなく、ストーリーの1コマのつもりだった。このようなことになって残念です」と話した。

 米軍基地をめぐる沖縄での抗議運動に対するデマは、過去にも繰り返されてきた。

 2017年に東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)が放送した番組「ニュース女子」では、沖縄での抗議運動の参加者に日当が支払われているなどと根拠のないまま伝えた。番組を審議した放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は「十分な裏付けがないことは明らか」とし、重大な放送倫理上の問題があったとする意見を公表している。ただ、弘兼さんは取材に、ニュース女子の件は「知らなかった」と話していた。

 普天間飛行場の移設工事が行われている名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前で座り込みなどの運動を続ける沖縄平和運動センターの岸本喬(たかし)事務局長(61)は「『日当』が配られている事実はなく、過去にも繰り返し否定されてきた。皆さん手弁当で参加しており、交通費もない」と言う。

 辺野古への移設計画が浮上して30年近く経つが、今も抗議は続いている。岸本さんは「なぜ抗議が必要なのか。なぜ辺野古が問題になっているのか。弘兼憲史さんには本質的なところに目を向けてほしかった」と話した。

 17日発売の「モーニング」では弘兼さんの画業50周年を祝う企画を展開。島耕作が表紙を飾り、弘兼さんのインタビューやこれまでの歩みなどを掲載。「徹底した現場取材こそリアルな作品作りの生命線」などと書かれていた。(山崎聡、棚橋咲月)

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