青森県弘前市に今春、常設の落語寄席「わどなんど寄席」が新設された。常設の寄席は東京や大阪以外では珍しく、歴史的にも弘前での常設寄席は大正時代以来、およそ1世紀ぶりとみられる。席亭を務める水戸光宣さん(67)は「気軽に市民が集まれる場所にしたい」と町のにぎわい創出にも意欲を見せる。
ドン、ドン、ドン。弘前の飲食店街・鍛冶町近くの屋台村の一角に、開場を告げる「一番太鼓」の音が響いた。寄席の入口前には開場前から50人以上が行列を作る盛況ぶり。定員110席はすぐに埋まった。
弘前城をバックに一面の桜が咲き誇る「弘前さくらまつり」で多くの観光客が訪れる時期に間に合わせた4月26日のこけら落とし公演。トリを務めたのは、人気テレビ番組「笑点」で司会を務める春風亭昇太さん。会場には市内外から集まった観客の大きな笑い声と拍手があふれた。
江戸時代は弘前藩の城下町として栄えた弘前市。明治以降も県庁所在地の青森市、全国有数の漁港を抱える八戸市にも劣らぬにぎわいを誇った。
弘前市史などによると、明治時代には三つの寄席が存在したが、大正時代にはいずれも活動写真館(映画館)に転換。「寄席は気づいたら1軒もなくなっていた」と水戸さんは話す。
人口が減り、町に人通りが減った一方、弘前市内の1000人規模のホールで毎年行われている落語公演の入場者は増加傾向にあった。仙台市でも常設寄席「魅知国(みちのく)定席 花座」が2018年にオープンした。
こうした動きを横目に、落語公演を主催する一般社団法人「弘前芸術鑑賞会」の常務理事として水戸さんは寄席の新設を模索。落語芸術協会(東京都)の支援を得て開業にこぎつけた。
出演者の名前を掲げるめくり台、高座は特注品。座布団もそろえて東京の寄席と同様の設備をしつらえた。今後も毎月2回、東京から落語家などの芸人が訪れ、公演を開催。壁紙を黒くして暗転ができることから、寄席がない日には演劇や講演会にも使われる予定だ。
落語芸術協会の会長を務める昇太さんは「お客さんとの距離が近く、一緒に落語を作っていける空間」と評価。席亭の水戸さんも「小さい場所でやっていた落語本来の形を届けていきたい」と今後を見据えた。
市内から訪れた会社員の川村静さん(43)は「遠くまで行かなくても本格的な落語を聴けるようになるのがすごくうれしい。今後も定期的に見に来たい」と笑顔。長年の落語ファンだという市内の主婦(74)は「昼間の公演が多いということで来やすくて、とてもありがたい」と話した。【江沢雄志】
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