ジャズピアニストの巨匠、故チック・コリアに才能を見いだされ、今日のジャズシーンをリードするイスラエル出身のベーシスト、アビシャイ・コーエンさん(54)。日本ツアーを次々と成功させ、国内での知名度が高まる鬼才の素顔に迫ろうと単独インタビューすると、音楽に向ける情熱のほか、母国の状況を想定したであろう平和への思いが明らかになった。
コーエンさんは昨秋、国内外で活躍するピアニスト、小曽根真さんとユニットを結成して日本ツアーを行った。今年4月にも3都市を巡る来日ツアーがあり、13日から54歳の誕生日となる20日の「バースデー公演」まで計7日間、大入りの観客を熱狂させた。
コーエンさんの音楽へのアプローチは多岐にわたる。1990年代初頭に米国のジャズ界に飛び込み、コリアの「ニュートリオ」に参加。その地位を確かなものにすると、自身名義のトリオを結成するなどして話題作を次々に発表した。
4月のツアーはイスラエル出身の新鋭2人とトリオを組んだ。これまで多くの音楽家との共演を重ねてきたコーエンさんが仲間に求めるのは「信頼」。知性に富み、互いのことを大事に思えるかどうか。そしてまた、決して歩みを止めず、常に変化し続けられるかどうか。今回のトリオで起用した2人についても「非常に高い演奏水準のおかげで私の創造性は刺激され、さらに進化していきます」と話す。
10月には早くも同じメンバーで再び来日し、新日本フィルハーモニー交響楽団との共演が予定されている。2021年にスウェーデンの名門・エーテボリ交響楽団と録音したアルバム「Two Roses」の内容を披露するという。
14年以降、コロナ禍の期間を除いて毎年のように来日公演を行うコーエンさんに日本の印象を尋ねると、平和への思いがあふれ出した。「私の心を打つのは、(日本の)人々が互いに敬意を持って接し合い、平和なコミュニケーションを成立させている点です」。そして、戦闘が続く母国イスラエルの状況を念頭に置いたのだろう。「私の国もそんなふうであったらいいのにと思います。敬意を持ち、非暴力的な形で対話ができたら……」と語った。【西本龍太朗】
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