埼玉県坂戸市の「cafe chocotea(カフェチョコッティー)」の店主・高畑淳一さんは、10年以上にわたり立体ラテアートを作り続け、多くの人を笑顔にしてきたこの道のプロだ。現在放送中のドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?~』ではラテアート指導を務めている。そこで指導する上でのこだわりや、誰でも簡単にできるコツなどを聞いた。

誤算から生まれた、もこもこラテアート

高畑さんが「コーヒー」の道に進んだきっかけは、「今から17〜8年前のアイルランド」にさかのぼる。姉の住むアイルランドを訪ね、ワーキングホリデーで約1年2カ月滞在した。現地で働いたカフェでコーヒーを任されたが、「自分からではなく『やらされた仕事』だった。すごく好きでやりたくて自分から志を持って進んでいったわけではなかった」と、当時の心持ちを明かす。

「エスプレッソマシンを触ったのも初めてで、適当に仕事をしていた」という高畑さん。転機となったのは、同じ店で働いていたスタッフから入った「苦情」だった。高畑さんが作ったコーヒーを出すと「チップがもらえないか、もらっても安くなりそうな気がするから」と、自身が淹れたコーヒーを批判された。「指摘してきたスタッフは、お客さまと一緒に席についてしゃべっていたり、忙しい時間にも自分のペースを崩さずに働いてたり、真面目に働いているように見えなかった。余計に腹が立ってしまい、すごくカチンと来てしまった」と強い憤りを感じた。

この出来事をきっかけに、コーヒーと向き合う姿勢が一変した。今のように動画などもあまり共有されていなかった当時、「自分より上手だと感じる人に聞いたり、見よう見まねで作ってみたり」手探りで技術を習得していった。「反骨精神」を原動力に、「うまくなってやろう」と努力を重ねたが、「ビザが終わってしまった」ことから、道半ばで日本への帰国を余儀なくされた。

「どんどん楽しくなっていった」というコーヒーへの情熱は帰国後も続き、2010年3月には、実家で親戚が営んでいたパン店で、8席ほどのカフェを始める。「最初は葉っぱの形などを『フリーポア』というラテアートで作っていた。コーヒースタンドとしてやっていきたかったが、それだけだとなかなか難しかった」と苦戦も強いられる中、店に導入したコーヒーマシンが、その後の運命を変えることになる。

学生時代から塾講師をしていた高畑さんは、当時「昼間はカフェ、夜は塾の先生」という二足のわらじ生活。自身が使うマニュアルのプロ仕様のエスプレッソマシンとは別に、高畑さんが塾に行っている間に店を任せる家族や親戚にも使えるマシンも手に入れた。「フルオートで、当時『操作一つでプロをしのぐ泡ができる』というような、最新のもの。この機械が、僕の設定の仕方が悪かったせいもあるのか、すごく泡が立ってしまって、かなりもこもことした泡ができた」と、「誤算」が生じた。

「それをベースにある時、お客さまとして来た友人から『普通のラテアートはつまらないから、何か立体でできないの?』と言われて作ったのが最初」と、立体ラテアート誕生の瞬間を振り返る。その場で作った作品は「すごい」と褒められ、「他にはないから、これでやっていけば?」と友人からお墨付きももらった。

「今よりも忙しくはなかったので、デミタスカップで『もこっ』と作って、『ちょっと泡立てて作ったものです』と出し始めた」。オープンから1年ほどで、来店客の注文にサービス(無料)で付けるかたちで出し始めた。そこから3年ほどたち、メニューとして正式に提供し始めた頃には、SNSでの拡散やメディアからの取材などで注目を集め、看板メニューになっていた。

そんな立体ラテアートを、見て楽しむだけでなく、ここ数年は「作りたい」というニーズも高まる中、高畑さんが年に数回出向いているのが地元の公民館だ。講師を務め、高齢者たちに作り方を教えている。「100円ショップの道具でできるという条件で頼まれている」と言い、100均で買えるミルクフォーマーでも立体の泡を作れる方法を探した。

「気付くのはけっこう早かった」と、泡の立て方についても研究し尽くしてきた高畑さんは、すぐに「課題」をクリア。「もともと業務用の泡を立てる時に意識しているのが、きめ細かい泡にするために牛乳をとにかく複雑に攪拌(かくはん)すること。一定方向の回転をするよりも、『横・縦・横・縦』のように、複雑な動きにする方が、泡が細かくなる」。この「法則」を応用し、100均のミルクフォーマーも「複雑な動きをさせるために、フォーマーの回り方と逆回転で手を動かしてかき混ぜる」と、きめの細かい、長持ちする泡を作ることができる。

丸山礼にもレクチャーしたラテアートの『赤ちゃん理論』

高畑さんは、こうした経験や手法をドラマの現場でも活かしている。本来は、撮影現場でも業務用のエスプレッソマシンを使うのがベストというが、業務用のマシンは水道に直結させないと使えないため持ち込むのは容易ではない。厳しい条件の中で、100均でそろえられるようなものでもクオリティーが保てると分かっていたことが、今回のオファーを受けることにもつながった。

実際に撮影現場では、「かなり忙しくて、もうずっと作っている」と、想像をはるかに上回る忙しさだというが、カフェの店員・平野香絵を演じる丸山礼さんには、撮影に入る前に直接会って作り方を教える機会があった。「実際に触れて、作ってみたいと丸山さんの方から希望があり、作り方だけではなくて、『なぜこういう作り方をするのか』ということも含め、一から全部教えた」と言う。

「手助けなしで丸山さんだけで実際に何回か作ってもらった。家でも時間があったらできるように、器具や道具も全て渡した」と、真剣に向き合う丸山さんに自身もできる限りのことをした。「役として演じていく中で、しっかりとラテアートに着目してくれたことが、すごくうれしかった」と喜ぶ。

劇中で香絵は、ヒロインのまことに「もともとは漫画家になりたかった」と過去に叶わなかった夢について明かす一方で、「今はミルクで絵を描く方が好き」と楽しげに語る。いつかは自分の店を持ちたいと新たな夢に向かってラテアートを描く香絵の姿は、とても楽しそうに見え、高畑さんが描くラテアートとも重なる部分がありそうだ。

高畑さんが丸山さんにもレクチャーしたという、ラテアートをかわいく描くコツがある。

ラテアートだけではなく、「イラスト全般の話にもなる」と前置きした上で、「『赤ちゃん理論』と自分で名付けたもの。どうしたらかわいい絵を描けるかというのを自分で考えてたどり着いた」と話す。

高畑さんが考える「赤ちゃんの顔」は、「鼻筋が通ってないので、鼻から目の位置が近い。その分おでこが広がる」というバランス。その点を踏まえ「鼻があるラインから目をあまり遠く上の方に描かない。さらに目を寄るように鼻に近づけるとどんどんかわいくなる。ちょっとかわいさがないなと感じる絵も、このポイントを押さえるだけでかわいくなる」とアドバイスする。「それに、耳の形が丸ならクマ、縦に長いとウサギ、三角で猫になる」と「応用」編も。

坂戸で店を続けて14年。高畑さんが掲げるクレド(信条・行動指針)は、「瞬間感動」だ。「『感動瞬間』ではなく『瞬間感動』」と、言葉の順序が逆だと意味が変わってしまうという。「お客さまが入ってきた最初の瞬間や、メニュー表を見た瞬間、商品が出てきた瞬間……。その時の瞬間瞬間に、小さな感動を与えましょう、というのがうちのクレド」。

「cafe chocotea」では、ラテアートのほかにも、オリジナリティーの高いメニューが並んでいる。ご飯でかたどられたクマがルウに浸かる「森のクマさん」ならぬ「ハヤシのクマさん」と命名したハヤシライスや、顔の上にのせた「髪の毛」のパーツを取ると、つるんとした頭がお目見えし「坊や」に見えなくなるパンケーキ「ホットケーキ坊や!?」など。

店内に「妖精が住んでいる」と謳い、自身のことも「妖精代理」と語る高畑さんが大切にしてきた、「瞬間感動」のある店づくり。「ちょっとした気分転換や、人に『こういうお店があるんだよ』と伝えたくなるような感覚で来てもらっている。今は皆さんSNSで『予習』されて来られるので、それよりもちょっと上の『わっ、実物ってすごい』みたいなものも意識して大事にしていきたい」と笑顔を見せる。

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