秋田県八郎潟町の伝統芸能「願人踊」の継承に取り組んでいる男性がいる。幼い頃から願人踊に慣れ親しみ、次世代につなぐべく奮闘する男性の思いを紹介する。
八郎潟町に300年以上前から伝わる伝統芸能「願人踊」。
毎年5月5日、色鮮やかな衣装をまとった踊り手たちが町内の家々を回り、軽快なリズムにのせて踊りを披露し、五穀豊穣を祈願する。
4月下旬、本番に向けて地域の人たちが踊りの稽古に励んでいた。メンバーの中でも若手の川口直志さん(30)は、幼い頃から願人踊に参加してきた1人だ。
川口直志さん:
「小学校2年生の頃、7歳か8歳くらいの頃に始めた。小学校の授業で『子ども願人踊』があって、ベテランの先輩たちが講師となって、実際にやってみたら楽しいと思って始めたのがきっかけ。子ども願人は小学生までだが、中学生の時もスポット(応援)で参加した。高校を卒業し就職してから、また始めた」
願人踊には、小学生の「子ども願人」と大人が踊る「大人願人」があり、踊り手は女物の長じゅばんを身にまとい「一直踊り」という手足を軽快に動かす舞いを披露する。
この行事の一番の見どころは、歌舞伎の演目をモチーフにした寸劇だ。山賊の「定九郎」と老人の「与市兵衛」が繰り広げるコミカルな掛け合いが聴衆の笑いを誘う。
川口直志さん:
「子ども願人の時はずっと『定九郎』だったが、大人になってからは上手な定九郎役の先輩たちが何人もいるので、自分が演じたり踊ったりして役を回すようにしている」
願人踊りの魅力について川口さんは「芸能で、見て笑ってもらえることはあんまり無いと思う。願人踊りは結構コミカル。笑ってもらえるとやっぱりうれしい」と話す。
普段は地域の安全を守る消防士として働く川口さん。
子どもたちを指導する一日市郷土芸術研究会の畠山美喜雄会長は、幼い頃から川口さんを見守ってきた。
一日市郷土芸術研究会・畠山美喜雄会長:
「川口君は小学校の頃に、大人顔負けの定九郎を演じていた。大人願人では先輩の定九郎役がいるのでなかなか定九郎役で出演する機会は少ないが、今年も頑張ってくれると期待している」
一緒に稽古に取り組む先輩も川口さんに期待を寄せている。
先輩:
「性格が真面目なので、定九郎役だけでなく踊りもちゃんとできるので、中心的な存在になってくれると信じている」
振り付けを入念に確認する川口さんたち。稽古にも熱が入る。
川口直志さん:
「大きい舞台になると、その分ドキドキする。コロナも明けたと認識しているので、願人踊を今まで見たことがない人たちがたくさん来て、笑ってもらって、元気になってもらいたい」
5月5日、祭り当日。
大勢の見物客が見守る中、大人願人の面々が登場した。そこには真剣なまなざしで、堂々と定九郎を演じる川口さんの姿があった。
コミカルな芝居に、観衆からは笑顔がこぼれ、大きな拍手が送られた。
川口直志さん:
「たぶん1年待ってくれているお客さんたちがいっぱいいると思うので、その人たちの前で見せることができて良かった」
今後の目標について川口さんは「この町で願人踊を継承していくことを誇りに思っているし、願人踊がすごく好きなので、見に来たいという人がいるのであれば、きょうもこれからも踊り、あしたも踊りに来たい」
町に伝わる「願人踊」を受け継ぐ川口さん。今度は自分自身が、この伝統芸能を次の世代につないでいく。
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