公開中の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。
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「異人たち」
原作は山本周五郎賞を受賞した山田太一の小説「異人たちとの夏」で、昭和63年に大林宣彦監督が映画化。本作は再映画化となるが、監督・脚本を手掛けたアンドリュー・ヘイが現代の英国に舞台を移し、大胆に脚色している。
ロンドンのタワーマンション。ほとんどの部屋が事務所として使われているのか、夜になると人の気配が消える。ここに一人で暮らす40代のゲイの脚本家、アダム(アンドリュー・スコット)は、同じマンションに住む謎めいた青年、ハリー(ポール・メスカル)と出会う。
孤独感を抱えるアダムがある夜、幼少期を過ごした郊外の家を訪れると、12歳の時に交通事故で亡くなった両親がそのままの姿で目の前に現れ、心が満たされる。その後も足しげく通うようになる中、ハリーとの仲も深まるが…。
親は無条件でありのままの自分を受け入れてくれ、そばにいるだけで安心する-そんな郷愁を繊細に描いている。ただ本作では同性愛を扱っており、原作の世界観とは異なるので、好みが分かれるのでは。英映画。15歳以上が対象。
19日から全国公開。1時間45分。(啓)
「プリシラ」
エルビス・プレスリーの元妻、プリシラ・プレスリーの回想録を、「ロスト・イン・トランスレーション」などのソフィア・コッポラ監督が映画化した。
エルビスは14歳のプリシラを邸宅に迎え学校に行かせるなどし、21歳になるのを待って結婚した。コッポラ監督は、異次元の環境に飛び込んだ10代の少女の孤独や疎外感、自立を繊細に描く。主演のケイリー・スピーニーは、この映画でベネチアの最優秀女優賞を獲得し、かれんな幼い妻を見事に体現して魅力的だ。
ただ、エルビスの遺族らはプリシラとは対立しており、それもあってかエルビスの描写は中途半端だ。米映画。12歳未満の鑑賞は保護者の助言・指導が必要。
12日から全国順次公開。1時間53分。(健)
「No.10」
アレックス・ファン・ヴァーメルダム監督による、極めてクセの強い意欲作。久々に度肝を抜かれた。
主人公は、舞台公演に向けて稽古中の俳優、ギュンター(トム・デュイスペレール)。彼は共演女優と不倫関係に。それを知った女優の夫である演出家は、ギュンターに脚本の改変など陰湿な復讐を図るが…。
テーマは宗教への批判だが、ヴァーメルダム監督の語り口は奇想天外すぎて本気か冗談か分からない。中盤、物語があらぬ方向に大跳躍。あまりの唐突さと向かった先のとんでもなさに驚愕するやら、感心するやら。映画という表現は限りなく自由だ。作品の情報はあまりない方が楽しめる。オランダ・ベルギー合作。
12日から全国順次公開。1時間41分。(耕)
「ザ・タワー」
闇に閉ざされた空間を舞台に、ギョーム・ニクルー監督が人間の本質を冷徹に描いたSFパニック作品。
仏のとあるマンションが突然、漆黒の闇に包まれる。闇に触れると、その部分が刃物で切り落とされたように消失。外部との連絡も取れず、食料もとぼしい中、住民たちの生き残りをかけた抗争が始まる。
舞台はマンション一棟だけ。異常現象の説明は一切ない。閉塞感と飢餓が、住民から理性や寛容さを奪っていく様子が、じっくりと描かれる。人種別の結束と抗争、食料として取引されるペット、奇妙な宗教…。文明が逆転していく描写がリアルで興味深い。仏作品。12歳未満の鑑賞は保護者の助言・指導が必要。
12日から順次公開。1時間29分。(耕)
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