日本初の世界遺産のひとつ、鹿児島県の屋久島。番組「世界遺産」では、新ナビゲーターの鈴木亮平さんによる現地取材で、二週にわたる特別編を作りました。その中で印象深かったシーンが、鈴木さんが屋久島だけに生息するヤクシマザルと出会ったときのこと。「ぬいぐるみみたいですね。毛が長いから、ぬいぐるみっぽいんだ」と呟いたのです。
海により隔絶された環境で独自の進化 屋久島ならではの生きもの
ニホンザルの固有亜種であるヤクシマザルの特徴は、一般のニホンザルよりも体毛が長いこと。毛並みがフワフワして、小柄なこともあり確かに可愛い感じです。この体毛の長さは、雨の多い屋久島の環境に適応したためと考えられています。体毛が長いと、簔と同じように雨粒が毛に沿って流れていきます。
屋久島は「ひと月に35日雨が降る」と諧謔をこめて言われるほどで、山間部では年間1万ミリ(日本の平均年間降水量の約5倍)も降ることもあるのです。
屋久島といえば縄文杉などの屋久杉が有名ですが、他にも見るべき植物があります。鈴木さんは標高1800メートルを超える黒味岳に登ったのですが、山頂の目前でヤクシマシャクナゲという屋久島固有のシャクナゲと出会いました。葉が厚く、裏に綿毛が生えているのが特徴で、高地の寒さと乾燥に適応した結果、そのようになったと考えられています。番組では初夏の満開の時期に撮影をしたこともあるのですが、山地に赤と白、そしてピンクの花が咲き乱れる様子は一見の価値があります。
ヤクシマシャクナゲやヤクシマザルなど、屋久島ならではの生きものがいるのは、海によって隔絶された環境で独自の進化をしてきたためです。まさに進化の実験場ともいえるのが「島という環境」で、この点が評価されて世界遺産になった所はいろいろあります。
進化論発祥の地「ガラパゴス諸島」
また体重250キロにもなるゾウガメも島の環境によって甲羅の形が違っていたり、フィンチという鳥は島によってくちばしの形が違っていたり…まさに環境と進化の関係を物語る生きものの宝庫。19世紀、ここを訪れたチャールズ・ダーウィンの著書「種の起源」に大きな影響を与えた、進化論発祥の地とも言える島々です。
絶海の孤島「ロードハウ諸島」
ここの固有種が「ロードハウナナフシ」という昆虫。ナナフシというと、棒のような細長い体と脚で木の枝に擬態する虫というイメージですが、ボールズ・ピラミッドで発見されたものは全く違いました。体長は15センチもあって体も太く、その姿から「歩くソーセージ」と呼ばれています。番組でも撮影したのですが、人の両手の上に乗っている黒く大きなロードハウナナフシは尋常ならざる迫力があり、映像を見た女性スタッフが思わず悲鳴を上げたほどインパクトがありました。
ロードハウナナフシは、かつては近くのロードハウ島にも生息していたのですが、移住した人と共に島に入り込んだネズミに食べ尽くされて絶滅。人間もネズミも寄せ付けない、海のピラミッドで生き延びてきたのです。
ロードハウ島には「ロードハウクイナ」という固有種の鳥もいました。天敵のいない環境で「飛べない鳥」になった種なのですが、やはり人が持ち込んだブタが卵を食べて激減。ブタが登ることができない山岳部でわずか20羽が生き延びるのみという絶滅寸前まで追いつめられました。その後、ブタを駆除し、飼育・繁殖させるなどして、今では約300羽まで増えて低地でも見ることができるようになりました。
それぞれの島の環境に合わせて独自の進化をとげた生きものたち。孤立した環境が生んだ生態系だからこそ外部からの影響に脆く、ロードハウ諸島の例のようにたやすく崩れてしまう恐れがあるのです。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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