4月早々、新年度を迎えるにあたり、気候もようやく春めいてきた。環境がかわって起草をはじめた小欄も、心機一転の気分である。
もっとも歴史家の営為は変わらない。やはり「温故知新」。かつての旧稿を眺めつつ、少し以前・年度末の報道をみて目にとまったのは年中行事の「世論調査」である。
およそ毎月恒例の「調査」ながら、暦の節目で気になるらしい。またそれが期せずして、世上の動きとも呼応している。
先回とりあげたのは、およそ半年前、昨年のお盆、さらにその前は年末年始だった。ともに奇(く)しくも岸田文雄政権の「内閣支持率」が「最低を更新した」という記事である。
そして今回。年度替わりを控えた「内閣支持率」は、2割台の「危険水域」(読売3月25日付)という。これでは「最低」も「更新」も、もはや話題にならない。いよいよ「ポスト岸田」が取り沙汰されるにいたった。予算も成立し新年度にもなる。もう用済み・お払い箱だとの謂(いい)らしい。
その心はもちろん、岸田総理の力不足である。いわゆる「キックバック」に端を発した自民党派閥の裏金問題の処理にあたって、政治倫理審査会をはじめ、いわゆる「説明責任」履行に指導力を発揮できていない。そんな総理を国民は見限っているとの由なのだろう。
これまた恒例、以前に用いた言い回しをくりかえせば、岸田内閣の高い支持率に首をかしげてきた小欄だから、「危険水域」に異をとなえようとは思わない。ただまつわる報道記事に疑問は残る。
能登半島地震の災害復興は、遅々としてすすまない。円安・物価高への対処も道半ば、国家的な課題が山積のなか、自民党安倍派の「責任」や「処分」にメディアの話題が集中し、それで「世論調査」の支持率が下落する。
目を引く話題で「内閣支持率」が上下するという事象は、かつて旧稿で指摘した。今回もまさにあてはまって、いかにも岸田内閣らしい。そのあたりのメカニズム解析と政権の本質批判を新聞・メディアに期待するのは、こちらの望蜀(ぼうしょく)なのだろうか。
以上も以前に用いた言い回しである。せっかくの新年度ながら、こちらは心機一転どころか、旧態依然であった。旧稿のくりかえしになってしまったのは、業界の旧套墨守(きゅうとうぼくしゅ)なのか。それとも歴史家の習癖なのか。
「温故」はあっても「知新」がなくては意味がない。新年度の巷(ちまた)には新社会人があふれている。歴史家もフレッシュマンの顰(ひそみ)にならい、あらためて心機一転を期したい。
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岡本隆司
おかもと・たかし 昭和40年、京都市生まれ。京都大大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。専攻は東洋史・近代アジア史。著書に「『中国』の形成」など。
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