小島延夫(こじま・のぶお) 1959年、埼玉県生まれ。行政法や環境法などが専門で、早大院法務研究科教授や日本弁護士連合会公害対策環境保全委員長などを歴任。2011年から文部科学省原子力損害賠償紛争解決センター特別委員を務める。
―現在も個別の法律で国に指示権を認めているが、地方自治法に明記すると何が問題なのか。小島延夫弁護士
「地方自治法改正案の指示権は、包括的で何でもかんでも指示できるようになり、恣意(しい)的な行使が危惧される。現行法で国が指示できるのは、原則として自治体が国から引き受ける『法定受託事務』。その指示権も災害対策基本法や感染症法といった個別法で規定している。つまり、限定された個別のケースにのみ指示を認めている。一方、改正案の指示権は、法定受託事務だけではなく、自治体が自主的に行う『自治事務』にまで及ぶ」 ―指示権が自治事務にも広く適用された場合、国民生活に影響が出るのか。 「感染症のまん延時、ある自治体が自治事務として住民全員のPCR検査を独自にやろうとしたとする。やらない自治体もあるだろう。政府は、他の自治体との平等性、公平性を欠くとの理由で検査を妨げる指示を出すことは十分起こり得る。それによって、守れたはずの住民の命が失われ、健康が損なわれるかもしれない。地域のニーズは地域ごとに違うのに、政府が中央集権的、画一的に指示すればうまくいくという考え方は幻想でしかない」 ―改正案によると、指示ができるのは、大規模災害や感染症のまん延の他、「その他国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」となっている。 「要件が抽象的で曖昧すぎて、指示権行使の範囲が政府によって広く解釈される恐れがあり、大きな問題だ。災害と感染症だけではなく、戦争の危機などが含まれることもあり得る。措置をとらないと事態を防げないという緊急性や切迫性が要件に入っておらず、政府が必要だと判断すれば緊急性がなくても指示を出せるようになっている」 ―国会が指示権乱用の歯止めにならないのか。 「重大な指示を出すというのに閣議だけで決め、国会の事後承認も不要となっている。本来、国会が『こういう場合なら指示が必要だ』と議論して認めた個別の事態に対応する法律の規定に基づき、指示権が与えられる。このプロセスを完全に飛ばして自治法に包括的な指示権を付与することは、法定主義からしても論外だ」 ―なぜ今、法改正なのか。 「政府は医療を中心に活用してもらう狙いでコロナ対策の補助金を自治体に出したが、冷え込んだ産業の振興だったり地域の状況に応じて割と自由に使われてしまった。地方が言うことを聞く仕組みを作ろうというのが発端だ」 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。