4年半ぶりの開催に思惑交錯

3カ国の首脳会談は、「日中韓プロセス」と銘打って2008年から原則年1回、持ち回りで開催してきた相互協力の枠組みだ。だが、2018年前後に慰安婦、元徴用工問題などを巡って日韓関係が戦後最悪の状態に冷え込んだことに加えて新型コロナの流行もあり、2019年12月に中国の成都で開かれて以降は開催が途絶えていた。

約4年半ぶりの再開にあたり、岸田、李強両首相、尹大統領の3首脳は全員初参加の舞台となった。いずれも「未来志向」を強調し、「日中韓プロセスの再活性化」に期待を明言したのは、自国民や地域社会に「前向きな貢献者」という好印象を植え付ける狙いがあったのは間違いない。

共同宣言にも、「首脳会談の定例化」に加えて、▽人的交流、▽気候変動と開発、▽経済・貿易──を含む「6つの主要分野」を明記したほか、具体的な協力項目として「2030年までに3カ国の人的交流を4000万人に増やす」、「日中韓自由貿易協定(FTA)交渉の加速を議論する」などを盛り込んだ(※1)

3カ国の国内総生産(GDP)の合計は世界GDPの2割を超す。深刻な経済減速に悩む中国にとって、日韓を抱き込んでFTAの早期合意や貿易拡大をめざすメリットは大きい。また、前日行われた中韓首脳会談で、李強首相は中韓の「外交安保対話」新設、中韓FTAの後続交渉、サプライチェーン安定化のための「中韓協力・調整協議体」の開催などの合意を取り付けた。日米韓の連携から韓国を引きはがそうとする狙いを感じさせる積極外交だった。

安保構図を一変させた韓国政権

これに対し、過去4年半に地域や世界で起きた安全保障環境の変化による影響も見過ごせない。ウクライナ情勢や北朝鮮の核・ミサイル開発などもあるが、とりわけ大きな変化は2022年5月、韓国で尹錫悦政権が発足したことだ。

尹大統領は日韓関係悪化の要因となっていた元徴用工問題に区切りをつけ、昨年8月に米キャンプデービッドで開かれた日米韓首脳会談では、日米・米韓両同盟の「戦略的連携の強化」を約束した。中国・北朝鮮に傾斜していた前政権の外交路線に決別し、「対中抑止」に大きくかじを切ったことで日韓関係の飛躍的改善をもたらした。日本にとって、韓国が14年ぶりに「パートナーとして協力していくべき重要な隣国」(2024年版外交青書)(※2)と評価されるまでになったことが今回の首脳会談にも反映されている。

過去の日中韓関係においては、慰安婦や元徴用工問題で中韓がタッグを組んで日本を非難する「中韓」対「日本」の構図が珍しくなかった。しかし、尹外交によって、少なくとも安全保障分野ではそうした構図が様変わりしたといってよい。

北朝鮮──「日韓」対「中国」の深い溝

それを象徴していたのは、北朝鮮問題だ。北朝鮮は27日未明、「人工衛星」打ち上げを予告し、同日夜には打ち上げを強行した。打ち上げは失敗に終わったものの、3カ国首脳会談にぶつけてきたのは明白だった。

これに対し、首脳会談の席上、岸田首相と尹大統領は打ち上げを「国連安保理決議違反だ」として、そろって非難したにもかかわらず、李強首相は打ち上げ予告にも触れようとせず、「世界の陣営化に反対すべきだ」などの発言に終始したという。

さらに、首脳共同宣言を巡っても、前回(2019年)の宣言では、安保理決議に言及した上で「(3カ国は)朝鮮半島の完全な非核化に責任を担う」と明記していた。それにもかかわらず、今回は中国側が「朝鮮半島の完全な非核化」の文言の使用を強硬に拒んだという。このため、宣言が「それぞれ立場を強調した」という中身のない表現に終わったのは残念だった。

北朝鮮は核・ミサイル開発を強行する一方で、昨年夏以降はロシアとの軍事協力を深めて、ウクライナ侵略に北朝鮮が提供したミサイルや弾薬が使われているという。北朝鮮の脅威と暴走は東アジアを超えて世界に拡大しつつある。北朝鮮に外交的影響力を持つとされる中国が、その力を行使しようとしないならば、「極めて無責任」という非難を免れない。

日中の課題も未解決

岸田首相は個別の日中首相会談にも臨んだが、▽東京電力福島第一原発の処理水放出を巡る日本産水産物の輸入禁止の撤廃、▽日本の排他的経済水域(EEZ)内に中国が無断で設置したブイの即時撤去、▽中国で拘束された日本人の早期解放──などの懸案は、いずれも進展をみなかった。

今回の3カ国首脳会談では、3カ国の「協力プロセス再開」の装いを示したようにみえるが、安全保障における溝を覆い隠すことはできなかった。その背景として、日米韓の連携強化を通した米国の存在感が中国にとって重圧となっている側面を指摘するメディアもある(※3)。日本は次回の3カ国首脳会談で議長国の役を担う。中国は米大統領選などの米国の動きをにらみながら、今後も日米韓の協調にくさびを打つ外交を仕掛けてくると予想される。日米、日韓の連携を維持しつつ、日中の「戦略的互恵関係」をどのように育てていくかが問われている。

(※1) ^ 外務省。首脳会談共同宣言全文(仮訳)。

(※2) ^ 外務省。外交青書2024年版。59ページ。

(※3) ^ “China, Japan and South Korea Hold Regional Summit Overshadowed by U.S.,” by Choe Sang-Hun, NYT, May 27, 2024.

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