政府が5月31日に取りまとめた女性活躍や男女共同参画の重点方針「女性版骨太の方針2024」の原案には、紛争解決や平和構築の過程にジェンダーの視点を組み込む「WPS(女性・平和・安全保障)」の考え方が手厚く盛り込まれた。防災の現場に女性の参入を進める方針もその一例だ。WPSは上川陽子外相が国内外で必要性を訴え、推進に力を入れている。なぜ今、WPSが必要なのか。WPSに関する国別行動計画評価委員を務める立正大の川眞田嘉壽子(かわまたかずこ)教授に聞いた。(坂田奈央)

WPS 女性(Women)、平和(Peace)、安全保障(Security)の英語の頭文字をとった政策の用語。2000年に国連安全保障理事会で初めて、国際的な平和と紛争予防、紛争解決には女性の平等な参画や紛争下の性暴力からの保護、ジェンダー平等が必要であると明記した「WPSに関する安保理決議第1325号」が全会一致で採択された。決議を実施するため、日本は3次にわたって行動計画を策定している。

◆1990年代の民族紛争で意識高まる

WPSについて語る立正大の川眞田嘉壽子教授

 ―WPSの意義は。  「武力紛争下のすべての過程で女性の参画を促し、意思決定に関わることを保障しようというのがWPSの根幹だ。女性が紛争下で受ける不均衡な影響を踏まえ、女性を紛争下の性暴力から保護する対象であり、同時に平和・安全保障の主体として位置づける」  ―これまでの経緯は。  「2000年の国連安全保障理事会で初めて、平和・安全保障と女性の関係性に注目した決議が採択された。1990年代、旧ユーゴスラビアやルワンダでの民族紛争で、男女を問わず膨大な数の犠牲者が発生したが、その過程で大規模な集団レイプがあり、おびただしい数の女性が被害にあった。女性固有の深刻な性被害が知られたことで、平和・安全保障と女性の関連への意識が高まった」  ―世界では今もそうした被害が報告されている。  「武力紛争下では長年、敵方を弱体化させるために妻や娘を略奪し辱める手段が戦術として用いられ、性暴力を処罰しない『不処罰の歴史』が連綿と続いてきた。そうした歴史に終止符を打つためにも、女性が紛争予防や平和構築に積極的に関与し、被害者救済を行い、加害者をきちんと処罰することが重要だ。そうした意識がWPSにつながっている」

◆自然災害も共通課題多く

 ―防災・災害対応との関係は。  「武力紛争と自然災害は共通課題が多く存在する。日本は自然災害大国でもあり、日本の国別行動計画には『防災・災害対応、気候変動と女性の参画とジェンダー主流化』が含まれている。被災国や災害脆弱(ぜいじゃく)国の支援にジェンダー視点を取り入れたり、国内の防災会議でも委員の女性割合を高めたりする必要がある。能登半島地震の復興支援でも、この行動計画の視点を生かすことが期待される」  ―日本は15年、WPS推進のための具体策を盛り込んだ「第1次国別行動計画」を策定している。  「当時はあまり注目されなかったが、23年に第3次計画が策定されており、広く知ってもらいたい。上川外相による取り組み強化は、千載一遇のチャンスだと捉えている」

川眞田嘉壽子(かわまた・かずこ) 広島県生まれ。専門は国際人権法、ジェンダー法。早稲田大法学研究科博士後期課程修了。オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、2007年から立正大学法学部教授。「国際女性の地位協会」理事なども務める。



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