自民党有志の「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」が性同一性障害特例法が定める性別変更する上での要件厳格化を求める提言をまとめ、党政務調査会の特命委員会に9日、提出した。提言は10年以上継続して性同一性障害の治療を受け、他の性別で社会生活を営んでいるという要件の追加を求めた。女性の生殖機能を持った「法的男性」が出産する場合などに備え、民法上の親子関係を整理する必要性にも言及した。
法的男性が妊娠した場合、戸籍は女性に
特例法は性別変更する上で生殖機能の喪失を求める要件があるが、最高裁大法廷は昨年10月、これを憲法違反と判断した。法改正が迫られているが、要件を撤廃すれば、性同一性障害を抱える人々と女性へのなりすましなどの見極めが困難になるとも指摘されている。
提言は「一定期間(10年以上)継続して一定の治療を受け、かつ、一定期間(10年以上)継続して他の性別で社会生活を営んでいると認められること」を新たに要件に盛り込んだ。
カナダや英国では、刑務所や留置場などで、女性に性別変更した元男性による女性への性犯罪が発生している。これを踏まえ、提言では「収容施設などにおいては、生物学上の性別に基づき区別して収容される」ことを求めた。性別変更する上で、子供と接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」創設法案に盛り込まれた、就業を制限する「特定性犯罪」の前科がないという要件も追加した。
女性の生殖機能を持ったままの「法的男性」が妊娠・出産した場合は、戸籍を女性に戻すとの条文の追加についても、検討を求めた。
提言は「『なりすましによって生じた性的被害への国家賠償』『女性生殖機能が残っているので妊娠・出産してしまった戸籍上男性が母親になることの社会的混乱』という、現在までには、ほぼあり得なかったケースがあり得ることになる」と指摘。「女性たちの安心と安全を1ミリたりとも危うくしない」と強調し、リスクの排除を訴えた。
「診断の判断があやふやに」
平成15年に成立した特例法は、性別を変更するために複数の医師から性同一性障害の診断を受けた上で①18歳以上②未婚③未成年の子がいない④生殖不能⑤変更後の性別の性器に似た外観を備えている─の要件を定めている。昨年10月、最高裁大法廷は生殖不能要件を違憲と判断し、⑤の「外観要件」について憲法適合性の審理を広島高裁に差し戻した。④と⑤を合わせて「手術要件」といわれる。
特例法は性同一性障害者について「他の性別であるとの持続的な確信を持ち、身体的および社会的に他の性別に適合させる意思を有する者」と定義する。ただ、手術要件が撤廃された場合、客観的な基準がなくなり、衝動的に元の性別による性行動に出る場合も含め、「なりすまし」が排除しきれないとの懸念もある。
性同一性障害を訴える患者を数多く診断してきた精神科医の針間克己氏は9日、特命委の会合に出席後、「手術要件がなくなると(性同一性障害者の)定義に一致するかどうかの判断が非常にあやふやになってしまう。診断が難しくなるので何らかの基準を設けたほうがいい」と産経新聞などの取材に語った。(奥原慎平)
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