自民党を揺さぶり続ける巨額裏金事件を巡り、同党は4日、安倍(清和会・解散)二階(志帥会・同)両派幹部など関係議員らの処分を決定したが、「党内の暗闘を露呈したような結果」(自民長老)に、野党はもとより大多数の国民が「怒り心頭」で、処分を主導した岸田文雄首相は「墓穴を掘った格好」(同)となりそうだ。
処分決定を受け、岸田首相と党執行部は「裏金事件は一定のけじめがついた」として、政治的幕引きとしたい考えとみられる。ただ、注目の安倍派「5人衆」や二階俊博元幹事長の「処分」で「首相の“ご都合主義”が際立った」(自民長老)ことで、厳罰を受けた安倍派幹部らによる“内ゲバ”も表面化。このため「政局混迷に拍車がかかり、自民内の反岸田勢力の台頭による政権危機拡大にもつながる事態」(同)を招いている。
2人だけ「離党勧告」に、“大甘処分”批判
裏金事件での道義的・政治的責任を明確にするため、自民党は4日夕の党紀委員会(逢沢一郎委員長)で安倍、二階両派の議員ら39人の処分を決めた。まず、安倍派でキックバックの是非を協議した4幹部については、同派座長だった塩谷立・元文部科学相と、同派参院議員を取り仕切っていた世耕弘成・前参議院幹事長を「離党勧告」、下村博文・元政調会長と西村康稔・前経済産業相は「党員資格停止1年間」とした。
これにより、1年以内に次期衆院選が実施されれば4氏は無所属での出馬を余儀なくされるため、「事実上の“死刑宣告”」(閣僚経験者)との見方も広がる。さらに、派閥運営責任者の事務総長経験者で、高木毅前国対委員長(安倍派)は「党員資格停止半年」となったが、松野博一前官房長官(同)、武田良太・元総務相(二階派)らは「党の役職停止1年間」という「実害のない処分」に。
併せて、5人衆の1人の萩生田光一・前政調会長や、5年間の不記載額が2000万円以上だった衆参議員も同じ処分とする一方、500万円以上で1000万円を超えない議員らは「戒告」とし、500万円以下の議員らは「厳重注意」にとどめたため、「国民不在の大甘処分」(立憲民主)との批判、反発が広がる。
処分対象となった衆参議員ら39人に対し、党紀委員会は「弁明を希望する場合は4日午前10時までに文書で提出するように」と要求。これに対し塩谷、下村両氏らをはじめ31人が応じた。ただ、同委は改めて踏み込んだ事情聴取はしないまま、2時間足らずの協議で処分を決定。しかも、処分内容は「ほぼ、事前に岸田首相らが決めた通り」(党紀委メンバー)になったとみられている。
政治責任は「最終的に国民、党員の判断に」
これを受け岸田首相(自民党総裁)は4日午後7時半過ぎ、首相官邸で記者団の取材に応じて、経過を説明。まず、改めて裏金事件について「党総裁として心からおわびする」と陳謝。関係者が立件された宏池会(岸田派)の会長だった岸田首相自身を処分の対象としなかったことについては、「首相個人としての不記載がなく、岸田派としての不記載も事務の『疎漏』が原因だった」と釈明した。
自らの政治責任については「今後、先頭に立って政治改革に全力で取り組むのが総裁の責任。そのうえで最終的には国民、党員の皆さんにご判断いただく」と述べ、解散断行による衆院選や党総裁選による決着を示唆。これは、岸田首相が「破れかぶれ解散」の可能性をにじませて党内を牽制したと受け止める向きが多く、党内外に波紋を広げた。
その一方で岸田首相は、過去に清和政策研究会(現安倍派)の会長を務め、「裏金事件のキーマン」とされてきた森喜朗元首相については、「私の判断で(直接電話で)聞き取りを行った」ことを明かした。ただ「(森氏の)具体的な関与については確認できていない」と語っただけで、聞き取りを行った日付や具体的なやりとりは明かさず、不透明感ばかりが残った。
また、処分決定までの党執行部内での協議では、岸田首相と麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、森山裕総務会長の間で意見が対立。特に、二階派の武田氏の処分を巡り、同氏と政治的に敵対する麻生氏が「離党勧告」を強く主張したが、「最終的に“首相裁定”での甘い処分で決着した」(党幹部)とされる。
その背景には「政界引退を表明した二階氏を処分なしとし、それに合わせて武田氏も軽い処分とすることで、岸田首相自身の政治責任も逃れる思惑があった」(安倍派幹部)との見方が多く、「それが自民党内に反発を広げる要因」(同)となったのは否定できない。
離党した世耕氏、「衆院くら替え」断念せず?
そうした中、最も重い「離党勧告」という処分を受けた世耕氏は4日夜、党執行部に離党届を提出、直ちに受理されて自民党を離党した。その際同氏は記者団に対し「国民に大変大きな政治不信を抱かせることになり、心より深くおわびしたい。離党勧告が出されたことを受けて、政治的責任を取って自民党を離党することにした」と語った。
そのうえで同氏は「今後は、議員としての仕事を一生懸命やることに徹したい」と議員辞職を否定。記者団から「衆議院にくら替えして立候補する意向はあるか」と問われると「1日1日議員活動を懸命に務めていくということに尽きる」と答えるにとどめた。ただ、同氏周辺は「選挙に自信を持つ世耕氏は、無所属になっても衆院くら替えの意思は捨てていない」と漏らすなど、政敵の二階氏との確執はなお続きそうだ。
一方、「離党勧告」処分に「全く納得がいかない」と強く反発していた塩谷氏は5日午後、国会内で記者会見し、党規律規約に基づき、岸田総裁(首相)への再審査請求を検討していることを明らかにした。実際に請求すれば、党総務会が扱いを議論し、「相当の理由」があると認められれば党紀委が再審査することになる。
岸田首相は処分を決めた4日も、官邸に多数の外務省幹部を集め、9日からの国賓としての訪米の事前準備を進める一方、アメリカ公共放送のインタビューに応じるなど「問題を引きずらないいつもの岸田流」(側近)で政権運営への自信をにじませている。
これに対し、野党側は「もはや岸田首相は“死に体”」(立憲民主幹部)として、4月下旬にも設置される「政治改革特別委」を主舞台に、関係議員や森氏の証人喚問などを要求することで岸田首相を追い詰める方針だ。現状では自民党が「全会一致」を盾に拒否する構えとされるが、その対応自体が野党だけでなく国民の強い自民不信につながることは確実で、今後も政権危機の拡大が岸田首相を追い詰める展開となる可能性が大きい。
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