20日に告示される東京都知事選には、過去最多となる約50人の立候補が見込まれる。数字を押し上げているのが、立花孝志党首が率いる政治団体「NHKから国民を守る党(NHK党)」などの存在だ。立花氏は、候補者を大量擁立して選挙ポスターの掲示板を占有し、党に寄付した人の主張をポスターに掲載するという、型破りの構想を打ち出している。こうした行為は公職選挙法上、許されるのだろうか。(佐藤裕介)

「NHKから国民を守る党」などの候補者のポスターで半分程度が埋まった掲示板のイメージを示す立花孝志氏(右)=6月7日、国会内で(佐藤裕介撮影)

選挙ポスター掲示板には現時点で最大48人分のスペースが確保されているが、NHK党など複数の立花氏の関係団体が計24名を擁立する方向で調整しているため、立候補者が全体で50人以上になる可能性がある。 48人を超えれば、税金を使って掲示板を増設する必要も生じる。

◆1人300万円の供託金を支払っても「黒字」の可能性

NHK党のウェブサイトなどによると、5月末日までは1カ所5000円、6月1日~19日は1万円、20日以降は3万円を党に寄付すれば、都内約1万4000カ所にあるポスター掲示板のうち1カ所で、独自に作成したポスターを最大で24枚貼れる。 商品の宣伝や公序良俗に反する内容は認められないが、立候補者ではない寄付者が考えたデザインや内容、QRコードなどが掲載されることになる。 候補者1人あたり300万円の供託金を支払っても、仮に1カ所1万円の寄付が約1万4000カ所にあれば約1億4000万円が得られる。供託金の合計(24人分で7200万円)を上回り、選挙活動を通じて「利益」を上げることが可能になる。

◆立花氏「自治体運営にはビジネスセンスがないと」

都知事選のポスター掲示場。48人分のスペースが確保されているが…=東京都内で

立花氏は4月11日、都庁内で開いた記者会見で、この活動について「売買とは考えていない」「『選挙でお金もうけをするな』としかられるが、それは大間違い」と主張。「国家経営や自治体運営は金銭感覚、ビジネスセンスがないと税金の無駄遣いになる。しっかりとした経営能力がある人が政治家をするべきだ」などと持論を展開した。 この「ポスター掲示場ジャック」に対しては、「選挙をビジネスのネタにしている」などとして反対を訴えるオンライン署名活動が行われており、6月19日現在、2万筆を超える賛同者が集まっている。呼びかけ人は都選挙管理委員会に対し、NHK党に対する法的措置を求めることなどを検討しているという。

◆選管関係者「当選する意思が本当にあるのか」

立花氏の構想に、公選法上の問題はないのか。 公選法を所管する総務省の担当者によると、選挙ポスターの内容については「他の候補者の選挙運動をしたり、虚偽の内容といった公選法や他の法令に違反する内容を除けば、特段の制限はない」と説明。ポスターに関する売買を禁じる規定はないという。 都内のある自治体の選管職員は「公選法にのっとっている以上は受け入れるしかない」と述べつつ、こうした大量擁立には「当選する意思が本当にあるのか」と疑問を呈する。 白鳥浩・法政大大学院教授(現代政治分析)は「都知事選を選挙ビジネスのように利用しているような印象を受ける」とした上で、「公選法は今回のNHK党のような動きを想定しておらず、現代の社会の変化に対応できたものになっていない。今後の選挙でも同じような動きが出てくる可能性があり、法制度を見直していく必要があるのではないか」と指摘する。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。