総裁選のキングメーカーは2人
9月に行われる自民党の総裁選。すでに前哨戦は始まっている。
岸田文雄首相は21日の記者会見で、5月に終了した電気ガス料金の負担軽減策を再開すると唐突に表明した。また年金世帯や低所得世帯への給付金の検討も明らかにしたのだが、いずれも総裁再選に向けたばらまき策ではないかと見られている。
この記事の画像(9枚)また政治資金を巡って関係がギクシャクしている麻生太郎副総裁と2週連続「飲み」に行き、関係改善を探ったようだ。
主流派のキングメーカーである麻生氏が岸田氏を許すか、あるいは茂木敏充幹事長に乗り換えるか、はたまたご執心と言われる上川陽子外相で勝負をかけるか、思案のしどころだろう。
一方、非主流派のキングメーカーである菅義偉前首相が、メディアへのインタビューで連日「岸田おろし」発言をしているが、誰を推すかについては、菅氏に近い河野太郎デジタル相、小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、加藤勝信元官房長官に加えて、主流派の茂木氏のことも「ほめた」ものの、まだ決めていないということだった。
河野、石破両氏は出馬の意向のようだが、菅氏が誰を「推す」のかがわからないと、まだ戦いの構図は決まらない。
こうした中、最近永田町では「若手を総裁選に出すべき」という話がよく出る。斉藤健経産相、福田達夫元総務会長、小林鷹之前経済安保相らの名前が上がっているが、小泉氏もこの枠に入るだろう。
「内閣総理大臣を目指します!」
先日、雑誌「月刊正論」の連載で若手の1人である小林鷹之氏にインタビューした。
小林氏は財務官僚だったが、2009年に民主党政権が誕生し、自民党が下野した時に、当時働いていた米国ワシントンの日本大使館から自民党の谷垣禎一総裁あてに手紙を書いて立候補を志願したという「変わり者」だ。
小林氏には専門の経済安全保障のほか、憲法改正や政治資金などの話を聞いたのだが、最後に「総裁選に若手が出ろという話があるがどうか」と聞いたら、「内閣総理大臣を目指すのかという質問だと受け止めるなら、目指します」とズバッと言い切ったのにはちょっと驚いた。
「月刊正論」の「平井文夫の聞かねばならぬ」というこの連載では、経験者も含め「首相を目指すか」と最後に必ず聞くことにしている。
これまでの3人は、野田佳彦元首相が「総理というのはもがいて泳いで近づこうとしても無理」、小野寺五典元防衛相は「誰かがやればいいが、他の人ができない時は(私が)」、加藤勝信元官房長官は「高みを目指すと言った思いは変わっていない」と、皆さんかなり控えめだった。
だから小林氏のこちらの目を睨むように見ながらのストレートな物言いにはタジタジっとなったのだが、その意気や良しである。
自民は局面打開を考えろ
彼は現在49歳で衆院当選4回、閣僚経験1回の「若手」なのだが、こういう人が首相になるのは早すぎるのだろうか。
筆者が米国勤務の時にビル・クリントンという人が大統領になったが、彼は46歳だった。人口300万人の小さなアーカンソー州の知事を10年やっただけの地味な人だったが、1年間大統領選を戦って候補者同士のディベート(討論)を繰り返すうちに米国民はこの中央では無名な「若者」を大統領に選ぶに至った。
彼は2期8年務め、不倫問題ではミソをつけたが、ここ30年の歴代米大統領の中ではかなり優秀な方だったと思う。
クリントンの後に民主党の大統領になったバラク・オバマも47歳と若かったし、経歴も上院議員を一期やっただけだったが、彼もディベートでメキメキ人気が上昇した。
米国の大統領選は1年続く長丁場で、候補者がディベートや演説などいろいろな局面で行う発言や態度を国民が吟味し、最終的に大統領を選ぶ。この国民の厳しい「視線」に耐えた者だけが大統領になれる、というなかなか優れた制度である。
日本の自民党総裁選も同じようなスタイルにしてみたらどうだろう。長丁場で候補者の資質をじっくり見るのだ。それだと49歳だから若すぎてダメ、ということになはならないかもしれない。
自民党は政治資金の問題でちょっと身動きができなくなっているように見える。どう動いていいのかわからなくなっている。次の総裁の選び方を新しいものに変えるというのは局面打開の一つの方法ではないか。
小林鷹之氏インタビュー掲載の「月刊正論」8月号は7月1日発売です。
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