防衛省は11日、衆院情報監視審査会に「特定秘密」の不適切な扱いが数十件あったと報告した。各国との安全保障協力を深めるために2014年に特定秘密保護法を施行し、他国軍の運用情報といった機密の提供を受ける厳格な制度を整えた。それを扱う防衛省・自衛隊の現場に大きな穴が露呈した。
審査会の出席者によると、陸海空3自衛隊や防衛省の内部部局で、資格を持たない隊員や職員が安全保障に関わる機密情報に接していた。審査会から報告を受け、額賀福志郎衆院議長が木原稔防衛相に情報保全体制の改善を勧告する。
審査会長の岩屋毅元防衛相は国会内で記者団に「漏洩事案が相次ぎ、極めて遺憾だ。厳しく対応しなければいけない」と語った。
防衛省は12日に関係者の処分を決定する。
特定秘密の不適切な扱いは4月に海上自衛隊と陸上自衛隊で発覚した。事実関係の調査の結果、他にも同様の事案が複数見つかったもようだ。
特定秘密の仕組みは安倍晋三政権下の14年に施行した特定秘密保護法によって整えられた。防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野で機密情報を厳格に管理する。情報を扱うには身辺調査を含む「適性評価」を通過し、資格を得るよう義務付けられた。
不適切な運用は防衛省・自衛隊で常態化していた恐れがある。厳しい仕組みに現場の体制が追い付かず、問題を引き起こしたとの見方がある。
不正が多く見つかった海自の護衛艦では、特定秘密を不適切に扱った隊員の多くが幹部の指示を受けて作業にあたる非幹部の「曹士」階級だったとされる。情報を扱う資格を持たないまま、他国軍の船の動きが映し出される場所に出入りしていた。
自衛隊員の8割を曹士が占める。曹士階級は教育を受けた後、まず現場に投入され、その後、必要に応じて適性評価を受ける。有資格者と無資格者が同じ艦内でまざって働く実態がある。
適性評価は本人の同意に基づき、家族構成や飲酒習慣、借金の有無、犯罪歴など様々な情報を入念に調査される。資格の取得には半年から1年を要することもあるとされ、身辺調査を受ける心理的負担も伴う。
自衛隊員の数は3自衛隊を合わせて22万7千人。定数24万7千人に対して2万人ほど足りていない。限られた人員で部隊を運用する状況で、特定秘密を巡るルールの徹底がおざなりになっていた可能性がある。
特定秘密を巡る法整備は米国から日本の機密保全は不十分だとの指摘を受けていたことが背景にあった。中国の海洋進出や北朝鮮の相次ぐミサイル発射など、近年の日本周辺の安保環境の変化を踏まえ、日本と同盟国・同志国が機密情報を交換する重要性は増している。
特定秘密保護法では自衛隊と同盟国の米軍の間だけでなく、欧州諸国やオーストラリアなど、その他の国の軍とやりとりする情報も保護対象になる。日本がインド太平洋地域の安定を目的に防衛協力する国を広げており機密対象は増える。
他国軍と交換した情報は国内法だけでなく、情報保護協定を結んで保秘体制を強化している。日本は米国、英国、フランス、ドイツ、オーストラリア、韓国など8カ国、北大西洋条約機構(NATO)と協定を締結している。ニュージーランドとは6月の首脳会談で締結について大筋合意した。
保護協定に基づき、部隊間で相互の防衛能力や軍事的脅威となる国の情報を交換する。それらは特定秘密の対象となる。
自衛隊と米軍は指揮統制の連携を強化し、幅広い領域で統合運用を進めている。敵のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」も米国から衛星情報をもらい、自衛隊が迎撃する。
中国、北朝鮮、ロシアによる日本周辺での軍事的な動きを逃さず、対応にあたるには即時の情報共有体制が必要になる。
日本は英語圏の米英豪、カナダ、ニュージーランドの機密情報共有グループ「ファイブアイズ」との協力強化も目指している。米英豪の軍事枠組み「AUKUS(オーカス)」とは防衛装備を巡る提携で協議を進めている。
24年には政府は防衛産業などに所属する民間人も対象になる「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度も導入した。経済安全保障上の機密情報を保護する仕組みで、情報を扱う人を国が審査し資格を付与する点は特定秘密と共通だ。
経済と安保の境界があいまいになり、国の安全を脅かす情報の範囲が広がったことに対応する狙いだ。
官民を挙げて各国との安保協力のための情報管理を徹底しようとした矢先に、防衛省・自衛隊のずさんな管理体制が発覚した。日本が国際社会で築いてきた信頼に傷をつけかねない。
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