2024年7月19日、ドイツ、スペイン、フランスとNATO欧州3カ国の軍用機が、同じ日に日本に展開した。
この記事の画像(23枚)ドイツとフランスは過去にも別々に日本に展開したことはあったが、スペインは初めて。今回の日本展開は3カ国の「Pacific Skies 2024」共同演習の一環で、アラスカでの米空軍との共同演習、それから日本を経て、オーストラリアでの国際共同演習に参加する。
日本に飛来した機数は合計約30機。この数もまた初めての規模だった。
ドイツ軍機とスペイン軍機は北海道・千歳基地に、フランス軍機は茨城県・百里基地にそれぞれ展開した。
千歳基地には、ドイツ空軍から主力のユーロファイター戦闘機8機、A400M輸送機3機、A330MRTT空中給油輸送機4機、A321輸送機1機、人員:約180名。
スペイン空軍からも主力のユーロファイター戦闘機4機、A400M輸送機2機、人員:約150名が展開。
千歳基地には、日米の戦闘機には見られない主翼の前の小さなカナード(先尾翼)が外観上の特徴となっているユーロファイター戦闘機が12機も展開したことになる。
また、ドイツ空軍機として飛来した4機のA330MRTT空中給油輸送機のうち少なくとも2機は、全部で7機しかないNATO共同運航機だった。
NATO共同運航機を含め、ドイツ、スペインから22機もの軍用機を受け入れた千歳基地は、さながら、“欧州NATOの基地”と見紛うばかりの様相だったという。
さらに、今回の3カ国の日本展開で興味深いのは、3カ国の戦闘機がいずれも日本の基地に着陸する前に航空自衛隊との共同訓練を実施したということだ。
フランスに言及せず…ロシアの反発の裏事情
この様相を強く意識していたのか、ロシア外務省は、すでに6月28日の段階で「7月19日から25日にかけて、ロシア国境に近い北海道でドイツ、スペインとの合同軍事演習を実施するという日本当局の計画に対し、在ロシア日本国大使館に強く抗議」と発表していた。
「日本側には、極東国境付近での挑発的な軍事活動は、域外のNATO加盟国との協力も含めて、断じて容認できないと指摘。我々は、このような活動をロシア連邦の安全保障に対する潜在的な脅威とみなす」としたうえで「我々は、岸田文雄首相の無責任な政策が、北東アジア及びアジア太平洋地域全体の緊張を危険な方向に向かわせていることを強調し、防衛力の強化とロシア連邦の主権の擁護に関するそれぞれの対抗措置について警告した」という。
このロシア外務省の抗議には、興味深い点がある。同じ日に日本に展開したフランス航空宇宙軍についての記述がないことだ。
では、ロシア外務省は、なぜ、フランスの名前を抗議文の中に入れなかったのだろうか。もちろん、抗議の対象をロシア極東に近い「北海道」での演習に絞ったということもあるだろう。
だが、それだけだろうか?
ロシアは、敵の戦略核ミサイルの飛行を見張る探知距離およそ6000kmのヴォロネジ戦略レーダーを国内に10基、あらゆる方向に向けて配備しロシアに向けて発射されれば自らの戦略核ミサイルで反撃する抑止態勢をとっていた。
ところが、インド洋方向に潜むミサイル原潜の核ミサイルを見張るロシア南部グラスノダールのレーダー2基が、ウクライナ軍のモノとみられるドローンに体当たり攻撃されたのだ。
(参考:ロシアのミサイル監視戦略レーダーに“穴” ウクライナ軍に供与された「AR3ドローン」の攻撃か【日曜安全保障】|FNNプライムオンライン)
グラスノダールのレーダーの修理が終わっていなければ、インド洋方向に潜むミサイル原潜の戦略核ミサイルにロシアはますます対応が難しくなりそうだ。
ドイツやスペインと異なり、フランスは5大国として核兵器を合法的に保有できる国の1つで、射程1万km以上の戦略核ミサイルを搭載した潜水艦をインド洋に潜ませることも可能だ。
ウクライナとの戦争が続くロシアは、極東の部隊から装備をウクライナやNATO正面に移したくなったとしても、NATOの航空部隊が極東で睨みを効かせているなら、それもままならなくなるのではないだろうか。
「日独両戦犯国が結託」北朝鮮の反発
NATO3カ国の軍用機の日本への展開について、反発したのはロシア連邦だけではない。
北朝鮮の国営・朝鮮中央通信は7月15日、論評の形式で「来る19日から25日まで日本防衛省はドイツとフランス、スペインの空軍武力を引き入れて北海道と関東周辺で航空「自衛隊」との共同訓練を行おうとしている。歴史上、初めてNATO所属3カ国の空軍戦闘機数十機が同時に日本に展開される事実について日本防衛相なる者は、各国軍隊の日本訪問はインド太平洋地域に対する関心と能力を誇示することであるとずうずうしく言った。(中略)こんにちの危うい形勢は、20世紀にファシズム・ドイツと軍国主義の日本が軍事同盟を結んで人類に破局的な災難を被らせた第2次世界大戦の前夜を彷彿(ほうふつ)させている。大戦で敗北した両戦犯国が共謀、結託して侵略戦争演習を次々と繰り広げるのは、地域情勢を激化させる尋常でない事態発展である」と主張。
当てこすり、批難の矛先の中心を日独に向けつつも、フランス、スペインの名前も記述している。
茨城県の航空自衛隊・百里基地には、フランス航空宇宙軍・第30航空団のラファール戦闘機2機、A400M輸送機3機、A330MRTT空中給油輸送機3機、人員:約260名が到着したが、ラファール戦闘機2機は、航空自衛隊のF-2戦闘機2機との訓練を行った後の着陸だった。
仏ラファール戦闘機の日本展開は昨年に続き2回目
フランス航空宇宙軍のラファール戦闘機が日本に来るのは、昨年7月に続き2度目だ。
フランス航空宇宙軍第4航空団所属の2機が昨年日本に初飛来した際は、韓国にも立ち寄った。
そのためか北朝鮮の朝鮮中央通信は「露骨な軍事的挑発である。フランスが(中略)敵側地域に戦闘機を派遣したのは、われわれの応分の憤怒をかき立てている」と非難していた。
前述したようにフランスは戦略核兵器のみならず、戦術核兵器も合法的に保有できる5大国の1つだ。
昨年、宮崎県・新田原基地に飛来した第4航空団のF3R仕様ラファールは、通常の戦闘機の任務の他に核抑止も任務としていて、射程500kmのASMPA超音速核ミサイルも運用できるとされる機体だ。
しかし、今回、日本に飛来したのはいずれも核抑止任務も能力も帯びていない第30航空団のラファール戦闘機で、フランス航空宇宙軍は「(核抑止任務がある)第4航空団のラファール戦闘機の一部は、オーストラリアのピッチブラック演習に参加する」と記者会見で表明していた。
つまり、フランス航空宇宙軍は、昨年、今年と核抑止も任務としうる特殊なラファールをNATO正面だけでなく、東アジアに展開する経験を積み始めているということなのだろうか。
イタリアも3カ国に続き日本に部隊派遣
岸田首相は、7月上旬に出席したNATO首脳会議で、NATOと自衛隊の共同訓練の実施を表明した。
先週、オーストラリアに寄港したイタリア海軍の空母カブールが、8月下旬には、日本に初寄港する予定になっており、NATOと日本の関係強化、そして、NATOのインド太平洋方面への動きが首相の言葉通り、ますます活発化していくようにみえる。
【執筆:フジテレビ特別解説委員 能勢伸之】
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