岐阜市の陸上自衛隊射撃場で昨年6月、訓練中の自衛官候補生の男が自動小銃で隊員3人を撃ち死傷させた事件で、陸自は18日、調査報告書を公表。示された事件の原因を踏まえ陸自は、新入隊員の訓練では弾薬を渡すタイミングを射撃直前に限ることで物理的な再発防止を図る。ただ、今後の公判への影響から渡辺直杜被告の動機面は公表されず、人的要因は不明なまま。「教育の徹底」は従来行っており、元陸自幹部は「これ以上何をすればいいのか」と戸惑いをみせる。
「結果として隊員3人が死傷したのは事実。各部隊に図った再発防止策をしっかりやっていくことに尽きる」。陸自トップの森下泰臣幕僚長は調査報告書を公表した18日の記者会見で、こう言葉を絞り出した。
事件は昨年6月14日、岐阜市の日野基本射撃場で行われた自衛官候補生の射撃訓練中に起きた。小銃を手にした訓練生4人が射撃位置手前の準備線で弾薬を受け取り、弾倉に込めた。その後、渡辺被告が弾薬係の隊員に銃を向けたとみられる。
この手順について調査報告書は「計画通り」とするが、「射手の手元に小銃及び弾薬がそろうタイミングを見直すことが必要」とも結論付けた。
一方、ある陸自関係者は「部隊によって弾薬を射手に渡すのは最後の最後、射撃姿勢に入ってからに限っていた」と証言する。従来は現場の判断に一定程度任されていた面もあるという。
自衛隊の射撃管理は「世界一厳しい」(元幹部)とされる。陸自の訓練では射手1人に管理係が1人ずつ付く。射撃後の薬莢(やっきょう)は全て回収し、1個でも紛失すれば全数がそろうまで射場内をくまなく捜し出す。こうした対応は世界的に珍しい。
管理が厳格過ぎれば部隊の柔軟性を損なう。別の元幹部は「有事では事前に弾薬を渡すので厳密に管理できない。平時から扱いに慣れる必要はある」としつつ、「新入隊員の訓練で徹底できなかったのは落ち度だったのでは」とも指摘する。
事件で残る焦点は人的要因だ。陸自はいったん調査を終了するが、渡辺被告の公判で動機などが解明され、新たな事実が浮上すれば採用段階の問題を含めた改善策を改めて検討する考えだ。
昭和59年に山口駐屯地(山口市)で21歳の隊員が射撃訓練中に発砲し、1人が死亡、3人が負傷した事件で、この隊員を約3カ月間教育した経験がある元陸自幹部は「内向的だが優秀で普通の隊員だった。事前に察知するのは難しい。できる限り物理的な管理の強化は妥当だ」と話した。
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