記者会見で次期自民党総裁選への不出馬を表明する岸田文雄首相=首相官邸で2024年8月14日午前11時37分、藤井達也撮影

 自民党総裁選不出馬を表明した岸田文雄首相の14日の記者会見詳報は次の通り。

 <冒頭発言>

 昨日のモンゴル首相との電話会談をもって夏の外交日程を一区切りつけた。お盆が明ければ秋の総裁選に向けた動きが本格化する。

 今回の総裁選では、自民党が変わる姿、新生自民党を国民の前にしっかりと示すことが必要だ。そのためには透明で開かれた選挙、自由闊達(かったつ)な論戦が重要だ。自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ。私は総裁選に出馬しない。総裁選を通じて選ばれた新たなリーダーを、一兵卒として支えていく。

 30年続いたデフレ経済に終止符を打つ。新しい資本主義の下、賃上げと投資促進のアニマルスピリッツを官民連携で復活させる。原発再稼働、新型革新炉の設置などエネルギー政策を転換する。3・6兆円の大規模な少子化対策を実行する。5年で43兆円、防衛力を抜本的に強化する。G7(主要7カ国)広島サミットの開催などを通じて国際社会で協調に向けた議論をリードする。日韓関係の改善、グローバルサウス(新興・途上国)との関係強化など外交を多角的に展開する。多くの皆様の協力によって大きな成果を上げられたと自負している。

国民を裏切ることがないよう臨んできた

 他方で、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)を巡る問題や、派閥の政治資金パーティーを巡る政治とカネの問題など、国民の政治不信を招く事態が相次いで生じた。私としては、被害者救済法の成立や、政治資金規正法の改正など、国民を裏切ることがないよう信念を持って臨んできた。

 特に政治とカネの問題を巡っては、派閥解消、政倫審(政治倫理審査会)出席、パーティー券購入の公開上限引き下げなどの判断について、国民の信頼あってこその政治であり、政治改革を前に進めるとの強い思いを持って、重い決断をさせていただいた。

記者会見で次期自民党総裁選への不出馬を表明する岸田文雄首相(中央)=首相官邸で2024年8月14日午前11時53分、藤井達也撮影

 残されたのは自民党トップとしての責任だ。もとより、所属議員が起こした重大な事態について、組織の長として責任を取ることにいささかのちゅうちょもない。今回の事案が発生した当初から思い定め、心に期してきたところであり、当面の外交日程に一区切りがついたこの時点で私が身を引くことでけじめをつけ、総裁選に向かっていきたいと考えている。

我こそと思う方は手を挙げてほしい

 日本が直面する内外の難局は本当に厳しい状況だ。今般の総裁選では、我こそはと思う方は積極的に手を挙げて、真剣勝負の議論を戦わせてほしい。新総裁が選ばれた後はノーサイド。主流派も反主流派もなく、新総裁の下で一致団結、政策力、実行力に基づいた真のドリームチームを作ってもらい、そして何よりも大切なことは、国民の共感を得られる政治を実現することだ。それができる総裁かどうか、私自身も、自分の一票をしっかり見定めて投じていきたい。

 もとより、私には政治家岸田文雄として、引き続き取り組まなければならない課題がある。30年続いたコストカット型、縮小均衡型、そしてデフレ型経済からの脱却を確かなものとするためには、新しい資本主義の下での取り組みを強化し、賃上げや投資増の流れを加速することで、GDP600兆円を確実なものとしなければならない。

 原発の再稼働、新型革新炉の設置を含めたエネルギー政策についても、電力自由化が進む中でいかに電力投資資金を確保するか。電力安全保障と脱炭素化をいかに両立させるか、第7次エネルギー基本計画の下で方向性を確かなものとしていかなければならない。

 外交においては、ウクライナ侵略から3年、核による威嚇、核使用の可能性すら指摘される中、唯一の戦争被爆国として、平和国家日本として、終結に向けてリーダーシップを発揮しなければならない。

 来年は日韓国交正常化60年の節目の年。日韓関係の正常化を一層確かなものとしなければならないし、戦略的互恵関係に基づいた日中関係、拉致問題の解決を含む日朝関係、北東アジアの近隣外交を前に進めていかなければならない。

 憲法改正では自衛隊の明記と緊急事態条項について条文の形で詰め、初の発議までつなげていかなければならない。既に緊急事態条項については条文化の作業、自衛隊の明記については今月末までに論点整理を衆参でとりまとめるよう指示を出している。

記者会見で次期自民党総裁選への不出馬を表明する岸田文雄首相(中央)=首相官邸で2024年8月14日午前11時34分、藤井達也撮影

 そして政治改革。政治資金規正法改正で残された検討項目について、早期に結論を得ていかなければならない。政治刷新本部に新たなワーキンググループを設けるよう指示を出した。私の政治人生、政治生命をかけて一兵卒として引き続きこうした課題に取り組む。まずは9月までの任期中、私の責任において、できるところまで最大限進めていく。そして今後とも、首相、総裁として能登半島地震からの復旧復興や、南海トラフ地震や台風などへの災害対策をはじめ最後の一日まで政策実行に一意専心、あたってまいる。

 <質疑>

 ――総裁選に立候補する選択肢はなかったのか。総裁選で誰を支持するか。

 ◆日本は引き続き難局に直面している。内外の課題にしっかりと取り組んでいくことは大変重要だと思うからこそ政治の信頼、国民からの信頼が大事だと思っている。国民の共感や信頼を再び取り戻すことによってこそ、政策を前に進めることができると信じている。自民党は変わらなければならない。自民党が変わったと示す第一歩が、私自身が総裁選に出馬しない、身を引くことだと判断し、今回の決断に至った。自民党として、与党として、しっかりと国民の信頼を得て、国民の共感をいただきながら政策を進めていく。こうした堂々とした道筋につなげていきたい。

 後継について、不出馬を表明した人間が何か申し上げることは控えるべきだ。ただ一つ申し上げるなら、政治とカネの問題、政治の信頼回復の問題について、一連の改革努力が続けられてきたし、これからも続けていかなければならない。一連の改革マインドが後戻りすることがないような方であってもらいたいということは感じている。

 ――不出馬を決めたタイミングは?

 ◆政治とカネを巡る問題が発生してからトップの責任のあり方については思いを巡らしていた。国会最終盤、政治資金規正法の改正なども実現したわけだが、政治とカネは大変重要な問題で、誠心誠意取り組んだつもりだが、やはり政治家としてやりたかったこと、そしてやるべきこと、これを今一度しっかりと整理して方向性を示す。それだけは総裁選から撤退するにあたってもしっかりと示していく。そうした政治家の意地みたいなものはあった。ですから、この国会が閉幕してから先送りできない課題について取り組み、結果を出していくことに専念をしていくと申し上げてきた。

記者会見を終えた岸田文雄首相=首相官邸で2024年8月14日午前11時53分、藤井達也撮影

 この1カ月半を振り返っても、実質賃金がプラスに転じ、最低賃金も過去最大の上げ幅を実現する。酷暑乗り切りのための経済対策、物価高対策を示させていただいた。さらには旧優生保護法における対応、直接の謝罪や除斥期間の主張を撤回するなどの取り組み。佐渡金山の世界遺産への登録、NATO(北大西洋条約機構)サミットへの出席、PALM10(太平洋・島サミット)の開催、憲法改正に向けても、党内の議論を整理して前に進めていく。こういったことを行ってきた。

 自分自身、今日まで取り組んできた政策課題における成果は大きなものがあったと自負しているが、それらについても改めて最後に整理し、今後の方向性についてしっかり示していく。これだけはやった上で今回の不出馬表明をしたいと強く思ってきた。

今度こそ信頼回復に向けて取り組んで

 いわば政治家としての意地をしっかり示した上で、これから先を考えた場合、自民党の信頼回復のためには身を引かなければいけないということで今回の決断をした。ぜひしっかりとした総裁選をやってもらい、選ばれた総裁は今度こそ、オール自民党でドリームチームを作って、信頼回復に向けてしっかりと取り組んでもらいたい。そのための決断でありたいと私は思っている。タイミングは今言ったような思いで取り組んだ上で、今日に至ったということだ。

 ――政権を支えてきた麻生太郎・党副総裁にはいつ伝えたか。なぜ支持率が低かったと思うか。

 ◆支持率の高い低いについて何か申し上げるつもりはない。政治課題で結論を出すことは大事だと思うが、一方で政治とカネの問題、政治の信頼の問題も大変大きな課題だと改めて感じている。政策を進めるためにも信頼回復に努めなければならない。そう感じて、その第一歩として、私自身の身の処し方を決断した。

 いろいろな方々の考え方はお伺いした。しかし私自身、最後は自分で決定する。これは当然のことだ。私自身が決定した。

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