岸田首相が突然の総裁選不出馬表明をしました。

なぜお盆、真っただ中のこのタイミングとなったのか、今後の総裁選の行方など、ジャーナリストの鈴木哲夫さんに詳しく解説してもらいます。

まずは、なぜこのタイミングだったのでしょうか。
岸田首相は、政治とカネを理由にしていました。

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「岸田さんの側近たちが言っていたのは、確率8割で出る、でも2割分かんないと。それはなぜかというと岸田さんって、何やるか分からない人だから。2割ぐらいは分からないよねと言っていたんです。だけど出るだろうと言っていた。 ところがちょっと様子が変わったのは、8月の頭、ちょうど先週ぐらいに僕はこの話を聞いたんですけども、岸田さんと1対1で会った某側近が、『ちょっとようすがおかしい』『元気がない』と言っていました」

「これ何かというと、経済なんですよ。株がとんでもなく乱高下して、これからの経済の見通しが立たなくなった。それからうりにしてたNISAなどが大丈夫なのかという話になって。 岸田さんの中で非常にポイントにしていたのは外交と、経済が柱だったうりだった。 その経済の見通しが立たなくなってきたっていうことで元気がなくなってしまった。 だからその側近は、『もしかしたら、先行きが見えなくて、2割の方かもと感じた』という話が回りました」

「 僕はそれでも『いや出るだろう』と思っていましたが、今考えてみれば、その辺も1つの節目になっている。つまり不出馬を決めたのは、実は8月に入って、まさに先週ぐらいにかけて、決めたのかなと推測できます」

国会が閉会した後に岸田首相は、地方視察に行き、外交など積極的に動いていましたが、それでも支持率が伸びるという実感を持てなかったということも原因として考えられるのでしょうか。

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「実際に支持率上がりませんでした。2、3ポイント上がったりはしたけど、それでもだいたい5人に1人、4人に1人ぐらいしか政権を支持していないわけです。その辺のショックがあって、それからある調査では、『岸田さん次もう変わってくれ』という意見が7割を超える調査も出ました。それに経済の見通しが立たないということが総合的に重なったのかなという気がします」

■次の自民党総裁は誰?

岸田首相の不出馬表明で、気になってくるのは、次の自民党総裁は誰になるのかです。

FNNの最新の世論調査で「次の自民党総裁にふさわしい人」を聞いた結果、上位は石破元幹事長、小泉元環境相、そして高市経済安保相、河野デジタル相、菅前首相…こういった顔ぶれになりました。

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「まさに乱立です。今まではざっくりと岸田さんが出るという前提で、なんとなくみんな考えていたけど、これが出なくなると、要するに岸田さんの後継は、新たにどういう形でまとまるのか」

「例えば岸田さんの流れで言うと、岸田派の上川外相、それから支えてきた自民党の茂木幹事長。茂木さんは『岸田さんが出るなら、自分は出ない』と言っていましたが、岸田さんが出ないのであれば、『僕が支えてきたのだから、僕が(出ます)』となると、岸田さんも麻生さんも応援する可能性もあります。それから岸田派の林官房長官に関しては、将来のエースといわれてきた人だから、このあたりが岸田さんの代わりになるでしょう」

「難しいのは『反岸田』のグループ。つまり菅前首相を中心としたグループです。なぜかというと、岸田さんが敵でいるからやりやすかったわけです。敵がいなくなることで、やりにくくなった。石破元幹事長、河野デジタル相、小泉元環境相、加藤元官房長官、この辺をどういうふうに一枚にして行くのか。 例えば、石破・小泉・河野みんな出て決選投票で一つにするとか、要するに難しい調整をしていかなければいけない。岸田さんが出るのだったら、岸田さんを敵にして、『誰が一番勝てるか』と考えれば簡単ですが、この辺がちょっともめてくると思います」

石破元幹事長はもう動きを見せています。

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「石破さんは早くから、『出る』という意思は言っていました。(20人が必要になる)推薦人にちょっと問題がある。でも推薦人が集まる、集まらないじゃないんじゃないですか」

「こう思うんです。『 自民党は“顔を変える”だけじゃダメ』ですよ。裏金事件のみっともなさがありました。だからもう自民党を根本的に変えるぐらいの、そういうテーマにした総裁選にしなければいけない。だから顔を変えるだけではだめなわけです

「 そういう意味では、石破さんの推薦人が集まるから、集まらないから、どうのこうのというわけではなく、『自分は出る!推薦人にはいないけど!私を推薦してくれ!』ぐらいの、本当に覚悟を決めた総裁選にしないと。これから1~2週間、多分さっき言ったような、数合わせが始まります。「誰と誰が会った」とかね。そういうことを僕はやっちゃいけないと思います」

では女性総裁、つまり初めての女性首相が誕生する可能性はあるのでしょうか。

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「私に言わせると自民党は、いろんな分野の中で一番“男尊女卑”、男社会。これが一番なのが自民党だと思う。だから自民党の中で女性議員が頑張って上に行こうと思うと、男性に媚びないと上がっていけないみたいなのがある。そういうので高市さん、上川さん、野田さん、みんな苦労してきたと思います。 だからそんな中で、『女性首相』なんて言うのは、女性を道具にしていませんか。でも僕はそれ(今の状況)を突破するには、『女性首相』があってもいいと思う。たださっき言ったように、数合わせの中で、女性にぐっと(指示が)集まっていくかは、まだ分かりませんけど。僕は突破するためには、あってもいいと思いますよ」

【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】「大阪選出で当選がまだ4回の若手議員に聞きましたが、若手の中では小林前経済安保相、東大・ハーバードを出たエリートで、元財務省の官僚の方ですけど、この方を推そうという流れで、いま固まりつつあるという話を聞きました。 ただもちろん小林さんが勝てるとは思ってない。つまりそれだけのドラスティックな刷新の仕方を打ち出さないと、今の自民党では、到底、今度の総選挙やったって勝てないと若手はもっと危機感を持っているという話を聞きました。 だからそういう意味で言うと、いま出ている顔触れで、本当に行くつもりなのか、若手とのかい離が自民党の中でもあるのではないかということすら、危機感を覚えます」

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「若手がやっぱり出てくるのは、いい傾向だと思います。ただ一つ厳しい言い方をすると、なぜ裏金事件の時に若手はみんな決起しなかったのか。あの時はずっと黙って。この政局になったら急に若手(が出てくる)。だからそういうところもひっくるめて、厳しく見た方がいいかなと思います」

■野党にとって手ごわい新総裁とは“若くてフレッシュな人”

野党にとって手ごわい新総裁とはどんな人でしょうか?
東京駐在の鈴木記者に聞きます。

【東京駐在 鈴木祐輔記者】「やはり、“若くてフレッシュな人”が野党にとって、一番厄介だと思います。野党が最も警戒するのが、『裏金問題がリセットされてしまうこと』なんですが、いま有力視されている党の最高幹部の茂木幹事長や派閥の重鎮クラスが話題にあげる上川外相は、旧来の自民党のイメージが強いため、野党側にとってはある意味、ラッキーな人選といえるかもしれません」

「一方で無派閥の小泉進次郎氏や小林鷹之氏のような人は、裏金問題に関与していないので、自民党の顔としてフレッシュな印象があるため脅威になると思います」

「というのも、立憲民主党で来月に行われる代表選挙では、前の代表の枝野幸男氏が一番に名乗りをあげたほか、野田佳彦元首相の出馬を期待する声もあります。しかし、自民党が新しいイメージの総裁を選ぶと、野党のイメージが旧態依然としたものになっていまう懸念があります。そういう意味でも野党は注視しているという状況です」

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「いやらしい敵がいればいるほど、野党は強くなるわけで、そこがスッと引かれたり、逆に言うとそこは若いエースが出てきちゃうと、もう敵として成り立たなくなっちゃって、弱くなっちゃうというパターンでしょうね」

「そういう意味では、野党はその辺を警戒しているのでしょうけれど、ただ、小泉氏や小林氏が本当に何百票も集められるかというと、なかなかそれは厳しいかもしれない。そうすると連合体がイメージできます。例えば石破さんと小泉さんと小林さんが連合して、執行部や政権を作っていくなど、そこに女性も入ってくるなど、そういうしたたかなことを今まで自民党はやってきました」

「そういうものに対して野党として何を柱にするかといえば、やっぱり『政権交代』ですよ。イメージとかもあるけれども、『立憲としてこの政策』というよりは、自民党がしたたかにやるなら、野党もしたたかに『維新とも組みますよ』、『共産党も裏で組みますよ』とまでは言わないが、そういう政権交代への道筋みたいなものを、立憲の代表選の争点にするべきじゃないかなと」

■解散総選挙は年内か?

では、今後のスケジュール見て行きます。

14日、岸田首相は不出馬表明ということになりました。
8月20日ごろに総裁選の日程が発表され、自民党の総裁選が9月に行われて、来年の夏に参議院議員選挙。
そして来年の10月に衆議院議員の任期満了ということになります。

この日程で解散総選挙はいつぐらいになると思いますか。

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「年内の総選挙もあり得る。岸田さんだと選挙、解散はちょっと先送りという見方をしていました。実際、岸田さん周辺はそう言ってました。選挙やらないから、安心して自分をもう一回再選させてという話ですよね。 だけど新しい顔になったら、自民党としては長く時間たつと、色んなボロも出てくる可能性があるので、空気を変えた瞬間に、解散を打ってくる可能性がある」

「これに対して、実は連立を組んでいる公明党が『絶対年内にやってほしい』といって、もうパンフレット作っているんですよ。参議院選挙のところに、実は東京都議選挙があります。公明党は全ての選挙の中で一番、力を入れているのが、東京都議選です。だから来年は選挙をやれないので、もう年内にやってくれという公明党のプレッシャーもくる。自民党にとっても、新しい空気の中でやった方が良いので、年内の解散総選挙の可能性が高まってきます」

■岸田首相が辞めることで、支持率は上がるのか? 「そんなに甘くはない」と鈴木さん

視聴者から番組あてにきたLINE質問を鈴木哲夫さんに回答してもらいます。

(Q.麻生さんや茂木さんには本当に相談しなかった?)

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「これは一生懸命取材しています。まだ確認は取れていませんが、麻生さんに『出ません』とは言わないんじゃないかなと

「岸田さんは、本当に信頼できる数人以外には、何もしゃべらないでやってきている人だから、例えば麻生さんに何かを相談したとしたら、麻生さんから広がっていく可能性がある。麻生さんと岸田さん関係は、しょっちゅうごはんとか食べているけど、派閥解散や裏金のコミュニケーションが尾を引いているという人が多いのです」

「茂木さんに関しては、岸田・麻生の関係と同じように、岸田・茂木にもちょっと溝があります。だからなんでも相談しているとは、僕は思えません」

(Q.自民党の支持率は不出馬表明で上がりますか?)

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「リアルなことを言うと、多少はもちろん上がるでしょう。新しい顔になり、新しい空気になれば、期待感という期待の数字が上がりますけど、ただ今までも自民党はそうやってしのいできた。苦しい時は顔を変えてしのいできた」

「でも今回、ここもう一年半ぐらい続いているのは、どんなことをやっても支持率が上がらない(ということ)。これはやっぱり自民党に対して、かなりの不信感が世論にあると思います。だから顔を変えただけで、『じゃあ期待しようか』と『爆上がり』するかっていうと、世論は、これからも冷静に見ていくっていう方が圧倒的に多いですよね。 そういう意味では、顔を変えたことが再生のきっかけになるかというと、そんなに甘くはないと思う」

根本的に変えていかなければ、結局、支持率は下がる恐れもあるということです。

【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「今度の総裁選で、もう一回、政治とカネの法律の改正をもう一回やるなど、自民党の定年制を入れるなど、とんでもない改革みたいなものを議論しない限りは、そう簡単に選挙(での支持)に繋がらないのかなと思います」

国民の厳しい目が注がれています。そして総裁選、これからどんどん熱を帯びていくということになります。

(関西テレビ「newsランナー」2024年8月14日放送)

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