岸田文雄首相が11日、連邦議会の上下両院合同会議で盛大な拍手で迎えられた際、「日本の国会で、これほどすてきな拍手を受けることは、まずありません」とジョークで返したことについて、批判の声が上がっている。
国内では支持率が低下しているにもかかわらず、スタンディングオベーションで歓迎される岸田首相を揶揄(やゆ)したい気持ちがあるのかもしれない。しかし、それはあまりに「狭量」な批判というものだ。
拍手は岸田首相個人に対するものではなく、日本人および日本に対する友好の表明にほかならない。米国にとって、それほど日本は重要な国になったということだ。それをジョークで感謝の意を表したのであって、演説冒頭の「つかみ」としては、十分、効果があったのではないか。
今回の岸田首相の訪米は多くの成果を上げた。
日本周辺の安全保障環境は、かつてないほど厳しさを増している。台湾有事はますます現実味を増し、わが国領土の尖閣諸島周辺海域への中国公船の領海侵入も常態化している。北朝鮮もミサイル発射を繰り返し、軍事攻撃の可能性すら口にしている。
かつてのように米国一国だけで東アジアやインド太平洋地域、世界の平和と安定は守り切れない時代となった。こうしたなか、日米関係、とりわけ防衛面での連携強化は、わが国の平和と安全を確保するうえで死活的に重要といえる。
一部には、今回の日米首脳会談で、自衛隊と在日米軍の指揮・統制枠組みの見直しなどに合意したことについて、「なし崩しに米国の戦争に巻き込まれる懸念が拭えない」との声があるが、実態は逆である。
米国内では、この地域から手を引いて自国のことのみに専念したいとの考えが台頭してきている。もし、そんなことになれば、日本単独でこうした脅威に対処しなければならないことになり、5年間で43兆円程度の防衛力増強ではとても足りなくなるだろう。今回の首脳会談で、岸田首相は米国のコミットメントをはっきり言及させた。
また、次世代エネルギーとして期待される核融合発電の技術協力を進めること、半導体やレアメタルなど重要鉱物の安定的な供給を図るため先進7カ国(G7)で協力することなど、わが国の経済安全保障強化に資する多くの合意も成し遂げた。
岸田首相が国内政治においてさまざまな批判を受けていることは事実だが、外交に関してはオールジャパンの対応が必要である。「与党だ、野党だ」、あるいは岸田首相を「支持する、支持しない」の次元ではない。
今回の訪米を批判するのであれば、もっと日米関係のあり方そのものを論ずるべきだ。子供じみた「ジョーク」批判には首をかしげざるをえない。 (政治評論家)
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