3カ国の安保協力を制度化

日米韓3カ国首脳は8月18日、昨年8月にワシントン近郊の大統領山荘キャンプデービッドで開いた会談から1年を機に共同声明を発表し、安全保障分野などで「日米韓協力が今日の課題に立ち向かうために不可欠だとの揺るぎない信念を有している」と強調した。声明は北朝鮮や中国を念頭に「強固な日米同盟、米韓同盟に支えられた安保協力の強化」を掲げ、「インド太平洋の平和と安定を維持する決意」も表明した。

日米韓は昨年の首脳会談で、従来の北朝鮮だけでなくインド太平洋を広く対象として、「日米韓の安保協力を新たな高みへ引き上げる」方針を打ち出した。その後、今年6月2日にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)に合わせた防衛相会談で、3カ国の安保協力を制度化することに具体的な点で合意。7月28日には東京での同会談で安保協力枠組み覚書に署名した。また、同18日に自衛隊の統合幕僚長と米軍、韓国軍それぞれの参謀総長が東京に集まり、制服組トップ会談を開催した。

なお、日韓の防衛相は6月1日、2018年に韓国海軍が自衛隊機に火器管制レーダーを照射した問題を巡って、事実関係の確認を棚上げしつつも再発防止策に合意し、両国は停滞していた防衛交流を再開した。これを受け、日韓外務・防衛閣僚会合「2プラス2」の初開催を検討していることも、木原稔防衛相が国会で明らかにしている。

日米韓の防衛・軍事当局に残された宿題

近年、世界的な権威主義国家群と民主主義国家群の対立の先鋭化を背景に、民主主義国にとって最大の財産である自由な価値観を「守り通す」ため、インド太平洋においては米国と日韓豪など同盟国が協調を深めている。日米韓3カ国の新たな安保協力強化の動きは、これまでの2国間同盟の枠組みを超えて日米と米韓の2つの同盟を緊密に結び付ける斬新な体制の構築への模索だといえる。

この狙いに沿って、日米韓は海空やサイバー空間など複数領域にまたがる共同訓練「フリーダムエッジ」を6月下旬に行った。今後、昨年12月に始動した北朝鮮の弾道ミサイルの情報を3カ国間で即時共有するシステムの検証も計画している。

ただ、これらの共同訓練などは自衛隊と米韓両軍の実力からすれば、自然体でいつでも実施できるものである。厳しい見方ではあるが、3カ国の首脳会議や防衛相会談で合意された新たな枠組みに「無理やり」結び付けてPRしているだけで、安保協力強化への実質的な効果は薄いと言わざるを得ない。

防衛・軍事の現場の観点から言うと、朝鮮半島や台湾の有事などの際に真に機能する日米韓の共同作戦の基盤となる軍事的な諸計画が存在せず、またそれらを部隊レベルで具現化する精緻な訓練が実施されていないことは大きな問題だ。

これらの諸計画と訓練体制が確立され、3カ国で共有されて初めて、首脳会議で示された安保協力を深める体制が機能する。ここに日米韓の防衛・軍事当局に残された宿題があると筆者は考えている。

現場から遊離すれば「絵に描いた餅」に

この宿題を解決するには、まず以下3つの戦略構想・作戦計画を突き合わせて検討し、調整を図るという、これまで全く手つかずだった課題に取り組まなければならない。

(1)米軍の戦略構想と作戦計画 戦略打撃(ミサイルや航空機による攻撃能力)と戦力投射(自国の外で軍隊を展開する能力)が基本(※各種事態を想定した複数の計画が必要)

(2)日米安保の戦略構想と作戦計画 「盾と矛」(自衛隊による専守防衛と米軍による敵国への攻撃)に代表される日米の戦略的任務分担が基本

(3)米韓同盟の戦略構想と作戦計画 北朝鮮の抑止と韓国の防衛および反撃が主眼

さらに、朝鮮半島と台湾の複合事態を想定した具体的な作戦計画も立案する必要がある。これらは多大な負担が生じる作業であるが、日米韓の防衛・軍事当局は速やかに開始しなければならない。

その後、3カ国は整合性を保った戦略構想や作戦計画に基づく精緻な共同訓練の実施という、自衛隊と米韓両軍の現場による最も難しい作業に取り組み、作戦能力を向上させる必要がある。それにより「地に足の着いた」日米韓の共同作戦が可能となり、首脳が合意した安保協力の強化が実現するのである。

もし、この3カ国の戦略構想と共同作戦計画の策定作業が事務的となり、現場から遊離するとしたら、それらは有事に全く機能しない「絵に描いた餅」になるのは火を見るより明らかである。

6月の日米韓防衛相会談での合意点の1つ、「朝鮮半島およびインド太平洋地域におけるさまざまな脅威を踏まえた」机上演習の実施は、今述べた3カ国の共同作業の成果である作戦計画を徹底的に検証し、不備な点を修正して完成度を高めることである。そしてさらに、その作戦計画を実戦に近い演習環境で検討し、問題点を改善して計画に再度反映させるという、気が遠くなるような現場の作業も控えている。

米国民の支持という「真の大問題」

昨年、日米韓の首脳は安保協力の強化とともに、毎年少なくとも1回は会談する方針を示した。しかし、岸田文雄首相は9月の自民党総裁選への出馬を取りやめ、バイデン米大統領も11月の大統領選からの撤退を表明した。両氏は間もなく退陣することになる。8月18日の共同声明の狙いについて、日本政府関係者は「首脳が交代しても3カ国連携に変化はないことを示すためだ」と説明したという(同日付の共同通信の報道)。

ただ、米国ではロシアによる侵攻が続くウクライナへの追加軍事支援の予算案に共和党内の保守強硬派が反対するなど、内向き志向が強まりつつある。今後、選挙戦を通じて世論が二分され、米国が同盟国や台湾の有事に全力で対処することへの国民の支持が弱まる恐れもある。実はその点こそ、これまでに述べた全ての課題を超越する「真の大問題」ともいえる。

米国が東アジアやインド太平洋に軍事面で関与し続けることに対する米国民の賛同は、日米韓の安保協力強化の大前提である。この点での米国内の支持拡大を最大の命題として日韓両国は取り組む必要があることを指摘して、本稿を終えたい。

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