久米晃(くめ・あきら) 1954年生まれ。愛知県東浦町出身。選挙・政治アドバイザー。業界紙の記者を経て80年、自民党職員に。2002年から選対事務部長、11年党事務局長。19年に定年退職。選挙の実務経験が豊富で、選挙に精通していることで知られる。
◆岸田氏不出馬は想像できたはずなのに…
―過去最多の9人が争う構図。背景は? 一番大きいのは、いわゆる裏金事件を受けた派閥解散の動きです。これまで総裁選の候補者は、だいたい派閥単位で出てきましたが、肝心の派閥がなくなりつつあるからです。 気になるのは、岸田政権が昨年後半あたりから明らかに行き詰まり、「岸田文雄首相(党総裁)は総裁選に出られない」というのが大方の見方だったにもかかわらず、総裁選の準備をしていた人が見当たらないこと。岸田首相が不出馬を表明したとたん大騒ぎになって、みんな20人の推薦人を集めるのに四苦八苦しました。これ、ちょっと異常ですよね。 ―とにかく手を挙げる、ということですね。 一番大事な「首相・総裁になって何をするのか」というものが伝わってきません。国民が知りたいのは、党内改革より、「これからの日本をどうするのか」「自分たちの生活は豊かになるのか」に対する解答ではないでしょうか。例えば、国民が今まさに自分事と感じているコメ不足や、地球温暖化をどうするか。南海トラフ地震のような災害にどう備えるのか。(どの候補者も)そういう国民の方を向いた考察を準備していなかったように見えます。 ―国民を代表する国会議員が、なぜそこに鈍感になってしまったのでしょう。 志が、いまひとつ薄弱なんじゃないでしょうか。何のために国会議員になったのか。国会議員一人ひとりが、国民に訴えるべきものを持っていない。だから、9人も立候補しているのに国民の関心はいまひとつ盛り上がっているようには見えません。自民党総裁選立候補者討論会を前にボードを手に撮影に応じる(左から)高市経済安保相、小林前経済安保相、林官房長官、小泉元環境相、上川外相、加藤元官房長官、河野デジタル相、石破元幹事長、茂木幹事長
◆新総裁は裏金への罰則の法改正を
― 一方で今回の総裁選は、裏金事件で批判を受けた自民党の自浄作用も問われています。しかし各候補者は真相解明などに消極的な発言が目立ちます。 裏金事件が明らかになった昨年秋にきちっと対応しなかったことが尾を引いているのではないでしょうか。多くの議員が政治倫理審査会に出なかったとか。納得している国民はたぶんいない。新しい総裁は、議員の倫理観に頼るだけでなく、まず罰則を厳しくするなど法改正に取り組まないといけません。 ―候補者の主張の中には、防衛費倍増のための増税見直しとか、マイナ保険証一体化をやめて現行の健康保険証を存続させるとか、政府・与党の方針と一致しないものがあります。その主張自体は悪くないと思いますが、じゃあ今までなぜ反対しなかったのかと。 防衛増税の見直しとかは特にそうですよね。責任者がそんなことを言ったら、党の決定って一体何なんですかという話になる。ちょっと理解できません。 ―27日の投開票が迫ってきました。注文は。 次の衆院選で自分たちが有利になるという理由だけで新総裁を選んだら、国民の政治不信、自民党批判は増すばかりという認識を持ってほしいと思います。「三角大福中」のころの自民党は、幹事長などの役職や重要閣僚を三つか四つやって、総裁選に立候補できる切符を手にしていました。今はそんな経歴がなくても出られてしまう。また、かつて竹下派に「七奉行」がいたように、トップに立つ人の下には軍師・参謀が必要ですが、今回立候補した人たちにはそれも見当たらない。不安感がわいてきます。
◆野党は一つの塊になるべき
立憲民主党代表選の候補者討論会を前に撮影に応じる(左から)野田元首相、枝野前代表、泉代表、吉田晴美衆院議員
―立憲民主党の代表選も23日に投開票されます。こちらは、どんな代表選を期待しますか。 自民党は、次期衆院選で単独過半数を獲得できるだけの信用を得るには、まだとても至っていません。野党にとってはチャンス。だから「自民党に代わって何をやるのか」をきちっと言って、政権を任せてもいいと思われるようにならないといけません。でなければ、2009年衆院選で政権を獲得した民主党のように、政権をとっても3年かそこらで元のもくあみになってしまいます。 あと、野党はやはり一つの塊をつくらないといけない。今の選挙は「自民党に入れたいか、入れたくないか」だけですから、「入れたくない」の受け皿が四つにも五つにも分かれていたら力になりません。 ◇ ◇ 東京新聞は、各界で活躍する方々によるコラムの掲載を始めました。キャスターの安藤優子さん、前兵庫県明石市長の泉房穂さん、元自民党事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃さん、ピースボート共同代表の畠山澄子さんが月1~2回執筆。今後も新たな筆者が加わる予定です。だれもが生きやすい社会をつくるため、知恵を結集するコラムにご期待ください。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。