「選挙の神様」の異名をとる選挙プランナーの藤川晋之助氏が東京新聞のインタビューに応じ、自民党総裁選(9月27日投開票)と、今秋にも行われる公算が大きくなっている衆院選の見通しを語った。総裁選では現状、小泉進次郎元環境相(43)が一番手、石破茂元幹事長(67)が二番手、高市早苗経済安全保障担当相(63)が三番手だと指摘。衆院選については、野党共闘が十分に進まない中で行われる可能性が高いとして、新総裁が率いる自民党が有利になると展望した。(聞き手・佐藤裕介)

インタビューに応じる藤川晋之助氏=9月18日、東京都内で(佐藤裕介撮影)

藤川氏は自民党田中派(解散を決めた茂木派の源流)の議員秘書などを務め、自民党を離党した小沢一郎氏の参謀としても活動。これまで、各地で関わった140回以上の選挙で勝利を重ねてきた。今夏の東京都知事選では、約165万票を獲得して2位につけた石丸伸二・前広島県安芸高田市長の選対幹部を務めた。 今回の総裁選では、交流のある大手コーヒーチェーン「ドトールコーヒー」の鳥羽(とりば)博道名誉会長から支援要請があった高市氏の陣営に加わっているという。 インタビューは9月18日に都内でおこなった。主なやりとりは以下の通り。

◆「『3強』の構図ができつつある」

―総裁選の情勢をどうみるか。高市早苗氏が善戦しているという情勢調査も出てきているが、まだ1位は小泉進次郎氏で、2位石破茂氏、3位高市氏の順だろう。現在、私は高市氏の支援に当たっている。高市氏は改革派で、財務省の言いなりではない積極財政派だ。もともと、そういった点に共感していた。SNSなども活用しながらムードを盛り上げている。ようやく、『3強』の構図ができあがりつつある」 「議員票は小泉氏がリードしている。党員・党友票は石破氏が強い。石破氏は、議員票をただちに広げるのは難しいが、党員・党友票で1位になれる可能性はある。議員に対するアプローチ、党員に対するアプローチ、一般有権者に対するアプローチはそれぞれ違う。私は、高市氏が2位に滑り込む(ことで決選投票に持ち込む)ために適切に手を打っていく」

自民党総裁選の決選投票 1回目の投票(国会議員票368票と党員・党友票368票の計736票)で過半数を獲得する候補者がいない場合、1位と2位の候補者で決選投票(国会議員票368票と党員・党友票47票)を行う。今回は9人による大混戦のため票が分散し、決選投票になるのは確実とみられている

◆「党員と一般有権者の感覚は多少違う」

―「3強」のここまでの戦いはどうか。小泉氏は菅義偉前首相の色が強い印象だ。政策面では選択的夫婦別姓の導入を打ち出した。党員には古い考え方の人も少なくない。あえてそこに踏み込んだことで1、2万票は減らしただろう。(同じく小泉氏が打ち出した)『解雇規制の見直し』も党員の受けはよくない。働く人の首を切りやすくする政策がプラスになるわけがない」 「石破氏は軽々に女系天皇の可能性に言及した。私の周りでは、非常に悪い印象を持っている党員が多い。党員と一般有権者の受けは違う。こういった小泉石破両氏の失点もあり、高市氏への評価はさらに高まりつつある」 「高市氏が1回目の投票で2位に滑り込めば、決選投票では、小泉氏の背後にいる菅氏との折り合いが悪い議員などからの支持が積み増され、勝機が出てくる」 高市氏の推薦人20人には10人以上の「裏金議員」がいる。高市氏は、党が既に正式な処分をしていて、蒸し返すようなことはしないと言っている。そういうことだろう。マスコミはそこをことさらに問題視するが、党員と一般有権者の感覚には多少違いがある」

自民党総裁選に立候補している(左から)高市早苗氏、小林鷹之氏、林芳正氏、小泉進次郎氏、上川陽子氏、加藤勝信氏、河野太郎氏、石破茂氏、茂木敏充氏=9月14日、東京都千代田区で(池田まみ撮影)

◆林氏は「そつがない」 加藤氏は小泉政権なら重用?

―「3強」以外の各候補者をどう評価する。小林鷹之前経済安全保障担当相(49)は優秀。早期に出馬を表明してバーンと走り、多くの候補が立候補するきっかけを作った。自民党はそのおかげで活性化したが、小林氏本人の選挙戦略としては適切だったのか。今回の選挙は、勝つための戦いではなくて、次につなげるための戦いなのかなという印象がある」 「林芳正官房長官(63)は頭がよく、そつがない。官房長官をやっている分にはいいのだが、『総理』となると何か熱いものを感じることができない。魂のこもった言葉が少ない」 「上川陽子外相(71)は法相時代にオウム真理教(の元教祖・麻原彰晃元死刑囚ら13人)の死刑執行を命じた。『政治家だな』とずっと評価してきた。それでも今回の総裁選では、演説を聞いていてもあまり中身がない印象がある。『景色』がどうのこうのとか、抽象的だ。何がやりたいのか明確に伝わってこない」 「加藤勝信元官房長官(68)は安定していて、アメリカとのパイプもある。菅氏は加藤氏を評価している。仮に小泉政権ができるとすれば、加藤氏も政権幹部に起用されるんじゃないか」 「河野太郎デジタル相(61)ネットを駆使していて、外相時代にもはっきりと物を言う姿勢が評価されていたが、マイナンバーカードについては性急過ぎた。支持も広がりを欠いている」 「茂木敏充幹事長(68)は非常に優秀でリップサービスもうまいが、党内で人気が広がっていない」

◆早期解散論は「『野田代表』での野党共闘つぶし」

立憲民主党代表選に立候補している(左から)野田佳彦氏、枝野幸男氏、泉健太氏、吉田晴美氏=9月7日、東京都千代田区で(須藤英治撮影)

―立憲民主党の代表選(9月23日投開票)、さらにその先にある衆院の解散総選挙についてはどう展望する。 「自民党は、9人も候補が出て非常に面白い選挙になり、政党支持率は上昇傾向にある。かなり早めに衆院の解散をやったら自民党に有利になる」 「立憲民主党代表選は野田佳彦元首相(67)が有力だろう。日本維新の会の議員は表向き否定するが、野田氏であれば、立民と維新が連携する可能性が出てくる。当然、衆院選が遅くなれば野党共闘の可能性が高まる。そこで今、新首相が衆院を早期に解散するという見方が浮上している。(立民と維新)両者の協議をさせないための解散の早出しだろう。老いたりといえども自民党。どんな手でも考えるんだなと思って見ている」


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