経団連が6月、選択的夫婦別姓の早期導入を求める提言をし、自民党総裁選(9月27日投開票)で大きな争点となった。当初、前向きな発言をしていた石破茂首相だったが、首相就任後は慎重姿勢に転じた。一方、立憲民主党は衆院選公約に早期実現を明記し、争点化を図る。滋賀県内の候補者も賛否が分かれている。27日投開票の衆院選を前に、滋賀県内で選択的夫婦別姓制度を願う人は現状をどう捉えているか聞いた。【飯塚りりん】
強い違和感
「ずっとこの名前で呼ばれてきたのに、何で変えないといけないんだろう。人に言ったら『おめでとう』と言われるんだろうけど」。県内在住の女性(34)は2019年に彼(35)との結婚を考えた時のことを思い出す。自分の姓を変えることに強い違和感を抱いた。周囲には結婚して改姓する女性が多かったが、「女性ばかりが名前を変えるのは不平等だ」と思っていた。彼に姓を変えたくないことを伝えると、彼は受け入れて「自分が変える」と言った。
ところが数カ月後、長男である彼の改姓に彼の両親が反対していることを知った。「彼の大切な親なので、関係を崩したくない」と何度か話し合った。事実婚という選択肢もあったが、新型コロナウイルス禍が急速に拡大し、「病院で家族として扱われないことは悲しい。法的に保障された方が安心なので婚姻届を出したかった」と振り返る。その後、彼の両親から一定の理解を得て、20年末に彼が改姓する形で結婚した。
だが、結婚後も違和感と葛藤が続いている。夫宛ての郵便物を見ると、「認識していた姓と違うので、『誰かな』と思ってしまう」。彼の両親に対しても、「跡継ぎだと思っていた息子の名前が変わるということに直面し、ショックだったとは思う。そこは申し訳ないな」と漏らした。
女性は昨年、住んでいる市の議会に「選択的夫婦別姓の議論活性化を求める意見書の提出を要望する請願書」を提出し、全会一致で採択された。女性は請願書を握りながら、「結婚しようと思った2人ともに自分の名前を使い続ける権利があるはずで、どちらかが変えないといけないということで人権が侵害されている。(名前が)変わってうれしいという人もいるので自分の価値観で選べるようにしてほしい」と訴える。
賛否割れる候補者
衆院選の県内候補者たちはどんな考えを持っているのか。公示前のテレビ討論でテーマとなった。
賛成派からは、「旧姓で積み上げてきた実績がつながらないのは人権の問題」と女性の思いと同じように人権に関わるとの指摘があった。また、「世界で同姓を義務化しているのは日本だけで遅れすぎている。女性に名字を変えさせて、家のことをやらせるという古い価値観を押しつけている」と同姓の義務が「時代遅れ」とする意見もあった。
一方、反対派は「子供の問題もあるので戸籍上の家族制度は維持した上で旧姓は法的な姓として認めるべき」と現行制度を軸に二つの姓を使い分ける形が望ましいとした。他には「親子別姓や兄弟別姓につながる。家族が同じ名前であることで家族愛が芽生える」と同姓が一体感を生むと強調する意見が上がった。
また、「子供が減っている中で家を守るために必要」と、例えば結婚した一人娘が姓を変えないことで「家」が維持される、として賛成する候補者もいた。
1996年、法相の諮問機関である法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申してから、議論は30年近く続いている。女性は「総裁選で争点となり、人の目に触れる話題になった。今後、議論が進むことを期待したい」と切に願う。
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