この国の時代を映し、行く先を占うもの。それが衆議院の全議員を選ぶ総選挙です。
27日の投開票日を前に、これまでの熱戦を振り返ります。
1回目は民主党が初の本格的な政権交代を果たした2009年の総選挙です。自民党の派閥重鎮やベテランが、無名の新人候補にバタバタと倒されていく中、早々と当選を決めたのが石破茂氏でした。勝負の分かれ目はどこにあったのでしょうか。(肩書は当時)
※過去の衆院選を振り返る「プレーバック総選挙」。ラインナップは次の通りです。(随時掲載)
①2009年・自民惨敗
②2012年・ドジョウ宰相の奇襲
③2017年・今に至る野党第1党誕生
④1993年・新党ブーム、非自民連立政権発足
⑤2005年・郵政選挙・刺客対造反議員の攻防
初の本格的な政権交代
「憲政史上初の政権選択選挙で、政権交代を選んでいただき、感謝したい。国民の皆さんの怒りが民主党への期待に結びついた」
09年8月、東京・六本木の民主党開票センター。赤いバラで埋まっていく候補者名が書かれたボードを背に、鳩山由紀夫代表は高揚した表情で勝因を語った。
予想以上の圧勝だった。リーマン・ショック後の世界的な不況で「派遣切り」が流行語となったこの年、都市部から地方まで日本中で「反自民」の逆風が吹き荒れ、閣僚経験者や海部俊樹元首相までも吹き飛ばした。
「積年の不満が……」
民主党は公示前の115から308まで議席を積み上げ、単独過半数(241議席)を大きく上回った。
自民党は公示前に300あった議席が119となり、1955年の結党以来、初めて第1党の座を失う惨敗となった。
「積年の自民党への不信、不満が集積された」
硬い表情で取材に応じた麻生太郎首相はこの日、自民党総裁の辞任表明に追い込まれた。
「政権のたらい回し」
自民党は小泉純一郎元首相が郵政民営化を争点に掲げた05年の衆院選では296議席を獲得し大勝した。だが、次第に格差の拡大や地方の疲弊など「改革」のひずみが表面化。一時は小泉氏に熱狂した有権者も自民党を見放し始めていた。
「小泉後」に首相についた安倍晋三、福田康夫両氏は就任からわずか1年で退陣。「政権のたらい回し」と批判を受ける中、「選挙に勝てる顔」として就任したのが麻生氏だった。だが、衆院解散を先送りし続け、その間に度重なる失言や漢字の誤読で、支持率は1割台まで下落した。
噴き出した「麻生降ろし」
さらに解散・総選挙が間近に迫った09年7月の静岡県知事選では、自民党と公明党が推薦する候補が敗北する。続く東京都議選でも、民主党が第1党に躍進する一方、自民、公明両党を合わせた議席は過半数を割り込んだ。
「麻生首相の下では戦えない」
都議選での敗北後、自民党内では「麻生降ろし」の動きが活発化した。地方選連敗の総括を求め、党大会に次ぐ意思決定機関となる「両院議員総会」の開催を求める署名には一時、党所属国会議員の3分の1を超える133人が加わり、党内は混乱した。
逆風の中、石破氏は圧勝
このとき署名に加わった議員の中には石破氏もいた。当時、石破氏は農相。主要閣僚が署名に同調したことで、麻生政権の弱体化をより強く印象付けた。
結局、総裁選前倒しの動議など不測の事態につながることを懸念した党執行部が「反麻生」勢を押し切り、総会の開催は見送られた。
「物を言わない、行動しないなら、政治家ではない」
「麻生総理の下で一致団結して戦おうと思えば、何が間違っていたのかを考えないと」
解散を前にした党内のドタバタに、石破氏は地元の鳥取県で開いた講演で党執行部を批判した。
8月30日の開票日。署名に加わった議員たちも次々と落選する中、石破氏は次点に約5万票差の11万票を獲得し、8選を決めた。
勝敗を分けたのは……
なぜ、逆風をはね返すことができたのか。当時の毎日新聞鳥取面は要因を分析している。石破氏が選挙の準備を本格化させたのは2年前の07年。自民党が大敗した参院選がきっかけだった。鳥取でも自民現職が民主新人に敗北した。危機感を抱いた石破氏は集落から市部までを縫うように回るどぶ板を徹底した。
「自民党は自らを正すべきだ」と反省を前面に出しながら、「私が自民党を立て直す」との論法を展開。石破氏自身が自民党に対する批判票の受け皿になることに成功し、手堅く勝利を収めたという。
批判受け、「裏金議員」非公認に
それから15年。石破氏は首相まで上り詰めた。派閥の政治資金パーティー裏金事件で「政治とカネ」に厳しい視線が注がれる中、党執行部は当初、事件で処分を受けた「裏金議員」を原則公認する方針だったとされる。だが、世論の批判を受けて一部の議員を非公認とする方向にかじを切るなど、まだ風を見極められていないようにも見える。
「失われた政治への信頼を取り戻す」
所信表明演説でこう語った石破氏。有権者の「納得と共感」を得られるのか。最初の審判のときが迫っている。【井川加菜美】
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