中谷元防衛相は17日、ベルギーで北大西洋条約機構(NATO)の国防相会合に出席した。日本の防衛相としての参加は初めて。石破茂首相はアジアの安全保障体制を強化すべきだと訴えている。会合を通じて欧州の安保体制の現状を把握し、衆院選後に自民党で始める議論に生かす。
中谷氏はオーストラリアなどとともにインド太平洋地域のパートナー国として招待された。米欧の軍事同盟であるNATOと日本はサイバーなどの分野で連携しており、岸田文雄前首相は2022年から3年連続で首脳会議に出席した。
中国の東・南シナ海での現状変更の試みについて米欧の関心が高まっている。防衛相の参加はより実務的な防衛協力を進めるための一歩になる。
中谷氏は国防相会合で、自身の参加について「欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障が不可分と多くの国で共通の認識になった証左だ」と述べた。「NATOとインド太平洋の同志国間の連携が深まっている」とも発言した。
中国の台湾周辺での軍事演習に関し、多くの参加国から「力による現状変更や威圧は許されない」との発言があったと会合後に記者団に明らかにした。ロシアによる侵略が続くウクライナの国防相との同日の会談で同国に自衛隊車両を追加提供すると伝えた。
石破政権は安保政策を最重要課題の一つに据える。政府と党の議論を主導する立場の中谷氏、岩屋毅外相、小野寺五典政調会長はいずれも防衛相経験者だ。
首相の持論の「アジア版NATO」構想や日米地位協定の改定、核共有の検討などについて27日投開票の衆院選後に自民党で議論を始める。首相は中谷氏の出張前に、米国との地位協定の仕組みなど持つ欧州の国の状況を聞き取ってくるように求めた。課題の論点整理に生かす。
NATOは集団的自衛権に基づく組織で、一つの締約国への攻撃を全締約国への攻撃とみなす。集団防衛を規定し、締約国が個別的あるいは集団的自衛権を行使して攻撃を受けた締約国を助ける義務がある。
首相が主張するアジアの安保枠組みは、対象国や担う役割が明確になっていない。かつて中国も入れるべきだと指摘していた。近年、協力関係を強めた日米韓や日米比の枠組みは対中国で抑止力を高める目的があり、アジアで集団防衛の仕組みを確立するのは難しい。
駐留米軍の活動を担保する協定は、NATO加盟国ではドイツ、イタリアが結んでいる。いずれも改定され、ドイツでは国内法の適用を強化しイタリアでは米軍の訓練の許可制度を導入した。日米も協定の運用改善を重ねており、政府内には改定は必要ないという声もある。
冷戦中の対ソ連のように共通の敵を想定して安保体制を組み立ててきた米欧と、日本、中国、韓国、北朝鮮、東南アジアなど安保面で様々な思惑を持つ国が集まるアジアでは事情が異なる。
首相の持論は日本国憲法や集団的自衛権の行使範囲などに関わる。首相就任後には「一朝一夕で実現するとは考えていない」と発言し、現実的な課題解決の方法も探ろうとしている。
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