衆院選に向けて、各政党や候補者が掲げる政策の一つが「学校給食費の無償化」だ。地域に目を向けると、来年度から給食費の値上げを検討したり、無償化を取りやめて一定の負担を保護者に求めたりと、物価高騰が直撃し、対応に苦慮する自治体の姿が見えてくる。

9年ぶりの値上げ

 愛知県日進市は今夏、来年4月から1食あたり小学生60円、中学生70円の値上げをする方針を決めた。これまで給食費は8年間据え置かれ、値上げは9年ぶりだ。

 こうした動きに市民から反発の声があがった。

 「全額無償化してくれと言っているわけではない。学習塾や習い事で苦しい家計を少しでも応援してほしかった」。小学生の子ども2人を育てる40代女性はそう話す。4152人分の署名を集め、値上げ分の公費負担を求める請願を9月、市議会に提出したが、委員会で不採択となった。

 学校給食法は、学校給食費について「保護者の負担とする」としている。今年度は、国からの臨時交付金で給食費を値上げせず据え置けたが、来年度以降はその交付金も見込めないという。

 市学校給食センターによると、物価高騰は「待ったなし」だといい、「給食の質、量を維持するために値上げはやむを得ない」と説明。保護者は月800円前後の負担増となる。

 市の試算では、学校給食費を無償化すると、年間約5億円の財源が新たに必要になる。日進市は地方交付税の不交付団体だが、市の担当者は「財政力指数は不交付団体ぎりぎりの状態で無償化は現実的ではない」という。

各地で進んだ「無償化」

 岸田文雄政権時代の少子化対策「こども未来戦略方針」を受け、給食の「無償化」は各地で進んだ。文部科学省が2023年度に実施した全国調査では、無償化した自治体は722自治体で、うち小中学校とも無償化したのは547自治体だった。17年度の76自治体から約7倍に増えた。理由については、652自治体(複数回答)が「保護者の経済的負担の軽減、子育て支援」で最も多く、次いで66自治体が「少子化対策」と答えた。

 県内では豊田市、安城市、みよし市、津島市、飛島村、豊根村、東栄町の7自治体が「無償化」だが、無償化できるのは、財政が豊かだったり、児童・生徒数が比較的少なかったりする自治体に限られるようだ。

 大府市は今年1月から中学生限定で全額無償化した。直前まで1食309円で、うち保護者負担額は290円だった。無償化の結果、今年度だけで約1億6900万円を予算に計上した。犬山市や小牧市でも一部無償化している。

公費負担か、保護者負担か

 物価高による値上げ分を公費で賄う自治体も多い。東海市は10月から小中学校の給食にかかる費用が1食あたり10円増に。公費で賄うため、新たに1136万円の追加予算が必要になった。23年以降、物価高騰で給食にかかる経費は増えているが、保護者の負担は据え置いた。学校教育課の担当者は「仕入れ価格はすべて上がっている。特に、米、パン、牛乳の値上げがきつい」と説明する。

 弥富市、北名古屋市などは全額保護者負担だ。

 一方、物価高騰を受けて来年度からの給食費の値上げを検討しているのは、瀬戸市、半田市、尾張旭市、春日井市、南知多町など県内の10自治体近くにのぼる。1人当たり50円ほどの値上げが見込まれる市もあり、公費でまかなうか、保護者負担とするか、頭を痛めている。

 ある市の担当者は「実質賃金は下がっていると言われているのに、値上げした分をそのまま保護者の負担にしたら、びっくりされる」と苦しい胸のうちを明かす。

 無償化を見直す動きもある。「無償」としている津島市は、来年度について、市長公約でもある「半額公費」は維持するものの、残りの半額は新年度の予算編成の中で検討するという。国からの交付金で無償化としていた設楽町は今年度から半額を保護者負担、東栄町でも来年度から同様の措置を検討している。

 来年度以降も学校給食に欠かせない米や牛乳、パンなどの値上げが予想されている。半田市など複数の自治体からは「財政力に関係なく、自治体格差が生じないよう国の負担で全国一律で無償化してほしい」という声も聞こえてくる。(松永佳伸、臼井昭仁)

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 〈おことわり〉当初配信の記事で、学校給食費について「全額保護者負担」の自治体に西尾市と岩倉市を含めましたが、西尾市は「物価高による値上げ分は公費負担」、岩倉市は「第3子以降は無償」の誤りでした。記事を修正しました。

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