投票所で交付される「投票済証」がインターネットのオークションサイトで販売されている。27日投開票の衆院選の投票済証も出品され、1枚数百円の値が付いている。投票済証が商品やサービスの割引に使われたり、投票啓発のためにデザイン性のあるものが発行されたりしていることが背景にあるとみられる。
投票済証は国政選や地方選で投票した人に選挙管理委員会が交付するカード型の証明書。選挙名や発行した選管名、日付などが記されている。
毎日新聞が24日に確認したところ、「ヤフーオークション」や「メルカリ」で複数の自治体選管の投票済証が出品されていた。人気キャラクター「シナモロール」のイラストが入った東京都品川区選管の投票済証や、札幌市・区選管が今回の衆院選で発行し期日前投票で交付されたとみられる「投票所来場カード」もあった。
品川区選管の投票済証には「転売はご遠慮願います」などと記載され、選管の担当者は取材に「大変残念だ」。札幌市選管の担当者は「このような事態は想定していなかった」と話す。
「無料でもらえるのに、わざわざ買う人がいるのか」と困惑するのは中部地方のある自治体選管の担当者。2年前に投票率向上を目的に発行を始めたが、販売の実態に「びっくりした。対応を考えなければならない」と話す。
投票済証にどんなニーズがあるのか。自治体関係者は、投票済証を示して各種割引を受けたり、イラストなど独自のデザインがあるものを収集したりするため買い求める人がいるとみる。
投票済証はすべての選管が発行しているわけではない。総務省によると、2021年の衆院選では全国1741の自治体のうち、6割に当たる1064自治体が発行している。
発行しないのには理由がある。沖縄県北谷町選管は、投票に行かないことで不利益があってはならない▽利益誘導や買収に利用されるおそれがある▽割引などのサービスがあるが選挙啓発運動と営利活動は分ける必要がある――など六つの理由をホームページで説明している。
同じく発行していない山口市選管の担当者は「投票したかどうか自体が憲法が保障する『投票の秘密』に当たる」と話す。大阪市は経費削減を理由に13年の参院選から発行をやめた。選挙の度に約50万円かかっていたという。特定の組織内で投票済証を提出させることで組織投票に利用されてきたとの指摘もつきまとい、国会で発行の禁止が議論されたこともある。
総務省は投票済証が公職選挙法に規定されていないことを踏まえ「発行を推奨していない」との立場で、「選挙は個人の意思で行くもので割引などで誘発されるものではない」とする。
福岡工業大の木下健准教授(政治学)は投票済証の販売について「金銭目的と受け止められかねず、好ましくない」と指摘したうえで、投票済証を利用した割引が広がる現状を踏まえて「投票と特定企業の利益が結びつけば政策がゆがめられる可能性がある。割引目的の投票が広がるなど民主主義の質の低下も懸念され、発行のあり方を見直す必要がある」と話している。【田崎春菜、平川昌範】
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