衆院選の世論調査で自公政権に厳しい結果が出る中、連立の枠組みが話題になりだしている。今の与党が過半数割れした場合、どの党がどの党と手を結ぶか、という具合にだ。選挙結果が分からず、議論しづらい側面もあるが、有権者からすれば、知らないうちに話が進むのは困りものだ。では、連立政権の枠組みはどう議論すべきか。海外の例も踏まえて考えた。(山田雄之、西田直晃)

◆自民・森山幹事長が「拡大」の可能性に言及

 「過半数割れしようとしまいと、同じ政策をもって国の発展を図ろうという政党とは前向きに協議していくべきだ」  自民党の森山裕幹事長は20日のNHK番組で、衆院選後に連立政権の枠組みを広げる可能性に言及した。  25日までの報道機関の情勢調査では与党の苦戦が見立てられ、「与党過半数の攻防」「自公、過半数微妙な情勢」と予想されるほか、「連立再編・政界混乱の恐れ」「自民逆風『連立拡大』論も」と報じられる。

情勢調査の結果を伝える各紙

 そもそも連立政権とは複数の政党で政権を担うことだ。進める政策などに合意し、政党間で連立を組む。  連立が必要とされる事情について、非自民連立政権の細川護熙首相の秘書官を務めた駿河台大の成田憲彦名誉教授(政治学)は「議席数の過半数を得るためだ。衆院で過半数を確保できなければ、国政は大きく混乱してしまう」と説く。  予算や法律などの議案も成立させづらくなるが、成田氏がとりわけ強調するのが「首相指名と内閣不信任決議」だ。「過半数を得られない少数与党の場合、野党に結託されたら、首相を確実に指名できなかったり、内閣不信任決議案を可決されたりする恐れが生まれる。常に野党の顔色をうかがうことになる」  にわかに「連立拡大」論が取り沙汰される今、気になるのが野党の動向だ。

◆不信任決議を提出しておいて「ありえない」と言うが

 立憲民主党の野田佳彦代表は衆院解散前、日本維新の会、共産党、国民民主党と内閣不信任決議案を提出したことに触れ、「対象政党と組むのは基本的にはあり得ない」。国民民主の玉木雄一郎代表も「ありません」、維新の馬場伸幸代表も「今の状況では一緒にやっていくことは不可能」と参画を否定した。

9日の党首討論で質問する立憲民主党の野田代表(佐藤哲紀撮影)。この日、野党4党は衆院本会議で内閣不信任決議案を提出したが、解散に伴い廃案となった

 ただ、いずれも首をかしげたくなる過去がある。  野田氏は民主党政権時代の2011年の代表選で、「ねじれ」国会の解消を目的に自公との大連立に意欲を示した。馬場氏は昨年7月のネット番組で、目指す方向性を「第2自民党でいい」と発言。国民民主も同年9月、副代表だった元参院議員が首相補佐官に起用され「連立政権入りの布石」との見方が上がった。

◆来夏に参院選をにらめばリスクになる

 今後、自公相手の対決姿勢は崩れないのか。政治ジャーナリストの藤本順一氏は現状を「有権者の自民への反発が強い情勢下で、連立を示唆すれば票が離れていく。野党は口が裂けても言えない」と解説する。  「来夏に参院選がある。自民への批判票を逃さないことを考えると、衆院選後に連立に参画することはリスクになる」  だが野党同士も選挙後にどう連携するかも見通しづらい。千葉5区など野党が競合する選挙区が各地で生じ、共闘は進まなかった。  政治ジャーナリストの安積明子氏は「議席を獲得しなければ与党への脅威にはならない」とする一方で、「政策が相いれない党同士の共闘は最初から難しい」と述べ、さらに「政治は国民のためのもの。さまざまな党が多様な政策を提示することが役立つのではないか」と続けた。

◆苦境に立つ自民党と沈没寸前の社会党が結んだ結果

 投開票は27日。選挙結果がどうなるか、今の段階では確たる判断は付かない。ただ、報道機関の世論調査などを踏まえれば自公の過半数割れの可能性は無視できず、連立の枠組みも重要な論点になる。  今は自公の連立政権だが、過去を振り返ると、平成以降の日本は1993年の非自民・非共産、2009年の民社国などの連立の枠組みを経てきた。

細川政権のころ、連立与党政策幹事会室の看板を掛ける与党各党のメンバーたち=1993年、衆院第1議員会館で

 異色だったのは、戦後の「55年体制」で対峙(たいじ)してきた党同士が手を組む形になった1994年の自社さ政権だ。政治評論家の小林吉弥氏は「野党転落で苦境に立つ自民党と沈没寸前の社会党の打算的な思惑が一致した」と解説する。  当時の東京新聞では、自民党幹事長だった森喜朗氏が代議士会で「やっと与党に帰ってこれた」と語ったことが報じられている。  かたや小林氏は「『社会党が変わった』と驚かれるとともに、世論の反発も強かった」と話し、その後の旧民主党の誕生、社会党の瓦解(がかい)につながったとの見方を示す。

◆欧州には6党連立政権樹立に1年半要した例も

 2007年には自民が主導した「大連立構想」が浮上し、民主党と接触した福田康夫首相(当時)のスタンドプレーが「密室政治」と批判を浴びている。「密室」となる背景について、小林氏は「裏で足元を固め、先行きの感触を得る」と語る一方、今は「根回し上手、軍師的な政治家が見当たらない」と述べる。

党首討論で民主党の小沢一郎代表の質問に答える福田康夫首相=2008年1月9日、国会で

 連立政権は、欧州諸国でもよく目にする。  同志社大の吉田徹教授(比較政治学)によれば、「民族、言語、宗教といった対立軸が分化しており、多極共存を実現する比例代表制に選挙制度の軸足を置いている。第1党が単独過半数に達しないのがほぼ当たり前」なのだという。  さらに「多党間の協議がもめると、連立交渉に1年以上が経過することもザラだ」とも指摘する。フランス語圏とオランダ語圏の南北対立が激しいベルギーでは、2011年に6党の連立政権の樹立に約1年半を要した。

◆数合わせのための連立に走れば、民意は離れる

 根気強さが浮かぶ一方、無視できない状況もある。近年の欧州各国は極右政党が議席を増やし、オランダでは今年7月に初の連立政権入りを実現している。  吉田氏は「連立政権には政策的な距離の近さ、政治家個人の意向が反映されやすい」と話し、「どの先進国でも移民の増加と治安の悪化、ロシアのウクライナ侵攻によるインフレ対策が争点となり、国民の支持をすくい上げた極右政党が党勢拡大を果たしたのが大きかった」と語る。  それでは、日本で有権者の納得を得ながら、連立政権を構築するにはどうすればいいのか。  法政大の白鳥浩教授(現代政治分析)は「それぞれの政党は本来、どんな政権の枠組みを想定しているのかを選挙前に提示するべきだ」と語る。

選挙後に新たな連立政権が誕生したら民意は反映されるのか(イメージ写真)

 「数合わせのために連立に走れば、民意は離れてしまう。密室で決めるのも厳禁。政権成立の交渉の過程を公表し、国民が納得するような丁寧な説明が求められる」  政治ジャーナリストの鮫島浩氏は「小選挙区中心の選挙制度であれば、有権者が政権や首相を選ぶ構図になるべきだ」と強調する。  その上で、もどかしい思いを口にする。  「現状では自公政権を望まない有権者がいても『選挙後にどんな政権を望むか』という選択の余地がない。少数政党が選挙後に『どこに付くか』と与野党双方との連携を模索するのも無理はない」と語り、「野党第1党の立民は自党の議席を増やすだけではなく、野党全体で過半数を目指すのが筋だ」と説く。

◆デスクメモ

 納得がいかないのは、選挙戦で批判した党とくっつくパターン。有権者が「あの党はダメ」「批判する党に期待」と考えても、党の方が打算で連立に動けば「何のための1票だったか」となる。投開票までわずかだが、各党は選挙後の対応を約束し、有権者の審判を堂々と受けてほしい。(榊) 

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