◆「与党に入れるか、入れないか」が選挙
―まず、与党はなぜ惨敗したのでしょう。 衆院解散を早め「石破さんらしくない」と評価されたのが始まりでした。いわゆる裏金議員の非公認で若干持ち直しましたが、非公認候補の政党支部にも2000万円を支給した問題が起こって、元のもくあみに。報道各社のインタビューに答える自民党総裁の石破茂首相=10月27日、東京・永田町の党本部で(佐藤哲紀撮影)
選挙は「これをやる」という夢を公約にして戦うものですが、解散を早めたことで全党的な議論ができず、語れる夢がこれといってない状況に。それに伴って、裏金事件が衆院選の争点になってしまいました。岸田政権のとき、裏金事件をきちっと処理しなかったせいでもあります。 ―逆に、野党は立民、国民民主党、れいわ新選組などが躍進しました。 自民党にはすごい逆風が吹いたけど、主要野党に追い風が吹いたわけではありません。選挙は「与党に入れるか、入れないか」なんです。参政党や日本保守党が複数議席を得たのも、既成政党に対する不満が続いているのだと思います。◆落選した人たちの亡霊が永田町にうずまいている
―投票率は小選挙区で53.85%と、戦後3番目に低い水準でした。 「政治とカネ」の説明不足で、政界全体に対する有権者の不信感が解消しないまま選挙に突入し、自民党でも支持層が投票に行かなかったりした結果だと思います。衆院選最終日を迎え、街頭演説に耳を傾ける人たち=26日、東京都大田区で(平野皓士朗撮影)
―首相指名選挙を行う特別国会が11月11日に召集される方向です。それまでに首相は自民党内の不満を抑えられるでしょうか。 石破首相の責任を問う声が出ています。「与党で過半数」という自分で掲げた勝敗ラインを割ったのですから当然でしょう。落選した人たちの亡霊が永田町にうずまいています。首相は何よりも早く、まず両院議員総会を開くなりして、選挙結果について党内にきちっと説明しなければいけません。それをしないまま、石破政権が続くことを前提に野党を引き込むような話をするのは、手順としておかしい。◆野党も大人の対応をすればいいが…
―石破首相が党内の不満を抑えられたとして、国民民主党や日本維新の会から連立や閣外協力などの協力を得られそうですか。 ハードルは高いです。国民民主や維新にとっても、今の自民党の誘いに簡単に乗ってしまったら、国民の期待を裏切ることになり、来年夏の参院選でしっぺ返しを受けるでしょうから。 政策協議をするにも、お互い衆院選で公約したことがあり、簡単に妥協できません。特に「政治とカネ」は非常に難しいでしょう。自民党にとっては、企業・団体献金や政策活動費は死活問題で、政権維持のためだからといって簡単に譲れません。 ― 個別政策ごとに、方向性の一致する野党と連携する「部分連合」はうまくいくのでしょうか。 「政治とカネ」のような基本的な問題を脇に置いてだと、なかなか難しいのではないでしょうか。ただ、困窮者向け支援のような重要な課題が進まなくなると大変です。そこは野党も大人の対応をすればいいですが、国民が「それなら仕方ない」と思える理屈がないといけません。記者会見で笑顔を見せる民主党の野田佳彦代表=10月27日、東京・永田町の党本部で(布藤哲矢撮影)
―石破政権が「少数与党政権」として続く場合、最近では1994年の羽田政権が思い浮かびます。 法案を通すにも野党のハードルを越えざるを得ず、スピード感がかなり鈍る可能性があります。そのことへの国民の不満は、やはり野党より与党の方により強く出ると思います。◆立民中心の政権ができる可能性は?
―来年夏の参院選や東京都議選まで、石破政権はもつでしょうか。 選挙で負けたら元も子もないわけですから、「石破首相では戦えない」という声が出てくる可能性はあると思います。 ―特別国会の前に首相が退陣する可能性もゼロではないと思いますが、その場合、後任は? 先の自民党総裁選で決選投票に残った、高市早苗前経済安全保障担当相は最有力候補でしょうか。 総裁選で高市さんを推した人たちが、衆院選でたくさん落選しましたね。とにかく、野党とも落ち着いて話ができる人が求められると思います。 ―首相指名選挙の結果、立民中心の政権ができる可能性は。 衆院選で「比較第1党」の議席を得た自民党中心の政権が続くのが軸だと思います。今回、国民も野党政権を望んでいたようには見えません。野党側は統一首相候補も示さず、政権をとるという気概が感じられませんでした。今回は自民党におきゅうを据える選挙であって、政権選択選挙ではなかった。そこは野党の責任です。 ◇ ◇ <久米晃が解く 政界の実相> 選挙・政治アドバイザーの久米晃さんに、時々刻々の政治の動きを解説してもらいます。久米さんは約40年にわたって自民党職員を務め、バッジをつけた国会議員とは違う立場から、政治の動きを見続けてきました。特に選挙の実務経験が豊富で、政界の裏も表も知り尽くした人です。豊富な知識や経験を基に、今の政治のあり方に警鐘を鳴らしてもらいます。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。