ラピダスに最大9200億円の支援
経済産業省は、国内の半導体事業への補助を増やしてきた。台湾の半導体受託製造会社TSMCの熊本第1・第2工場招致のため、1兆2000億円を支出した。
2024年4月2日、経産省は、最先端半導体の製造を目指すラピダスに、2024年度で最大5900億円を支援すると発表した。ラピダスへの支援額の累計は最大9200億円となり、対TSMCに次ぐ規模となる。
現在、国内で製造できる半導体は40nm台にとどまっているが、ラピダスは、2020年代後半に2nmの次世代半導体の量産を計画している。
半導体の製造には、チップの回路を作る「前工程」と、チップを基板に実装し、パッケージ化して製品にする「後工程」がある。これまでは回路を微細にすることで性能を高めてきたが、微細化の限界が近づいていると言われる。そこで、微細化に代わる手法として、後工程の研究開発が注目されている。
ラピダスは、半導体チップをメモリーなどと組み合わせて立体的に組み立てる最先端の手法の開発をめざす。2027年度の量産開始までに技術を確立させ、千歳市に建設中の工場で製品化する。工場建設には5兆円を投じる計画で、まずは、研究開発費も含めて2兆円の資金が必要だとしている。
ところが、民間企業は、ラピダスへの出資に及び腰だ。同社は2022年8月に設立され、トヨタ自動車、ソフトバンク、ソニーグループなどが出資するが、総額は73億円にとどまっている。
「最先端の半導体はうちには必要ない」「技術的なハードルが高く、本当に実現できるか見通せない」(2023年11月23日付朝日新聞、「政治案件」の半導体支援、民間から冷たい視線 責任負うのはだれ?)と、経産省が主導した国策事業に苦い過去があることを考えれば、民間企業の及び腰も当然だ。
半導体産業については、「日の丸半導体復権」をかけて、電機メーカーの半導体メモリー事業を統合した「エルピーダメモリ」が1999年に発足した。しかし経営に行き詰まり、公的資金活用による300億円の出資を受けた。それでも事態は好転せず、2012年2月に会社更生法の適用を申請し、製造業として史上最大の負債総額4480億円で破綻した。
「日の丸液晶」をめざした「ジャパンディスプレイ(JDI)」は経営難が続く。
同社は、ソニー、東芝、日立が行っていた液晶画面事業を合体して2012年に作られた。産業革新機構が2000億円を出資し、国策再生プロジェクトとしてスタートした。ところが、2019年に危機的な状態になり、産業革新機構から追加の出資がなされた。赤字の民間企業に国の金を投入し続けることに対して批判があったが、2018年12月10日、産業革新投資機構の民間出身の取締役全員が辞職。革新機構は機能を停止した。
補助金漬けになって弱体化した
高度成長期において、日本の製造業は国の直接介入を拒否した。それを象徴するのが「特振法」だ。
1962年、通商産業省は外資自由化に備えて日本の産業の再編成を図ろうとし、「特振法」(特定産業振興臨時措置法)を制定しようとした。しかし、当時の経団連会長の石坂泰三は、これを「経済的自由を侵害する統制」「形を変えた官僚統制」として、退けてしまったのである。外資による買収を防ぐより、政府に介入されないことのほうが重要と考えたのだ。
この当時、政府による保護策の対象は、高度成長に取り残された農業だった。ところが、1990年代の中頃から、この構造が変わってきた。競争力を失った製造業が政府に救済を求め、政府がそれに応えて介入するようになってきた。
しかし、日本の製造業が競争力を失ったのは、中国の工業化などの大変化によってである。世界の製造業の基本構造が変わってしまったからだ。それは、補助金で救えるものではない。
日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう。
必要なのは、「技術と投資と人材」
しかし、日本の半導体関連企業のすべてが輝きを失ったわけではない。最近の半導体ブームの中で脚光をあびているのが、半導体製造装置大手の東京エレクトロンだ。
同社の 時価総額は10年で16倍となり、トヨタ自動車についで、時価総額が日本で2番目に大きい企業となった。半導体の主要4分野の製造工程で世界1位、悪くても2位の装置を多数持つ。とりわけ最先端の半導体製造に不可欠の極端紫外線(EUV)向けは、シェア100%であり、世界をリードしている。
同社の河合利樹社長は、3月30日付の日本経済新聞のインタビュー記事「半導体投資、国に頼るな」の中で、「国は直近3年で半導体の関連予算を約4兆円確保した。国の支援がなければ世界屈指の競争力を取り戻すという目標は達成できないのか」との質問に対して、「半導体の重要性が再認識され、政府が支援をすることは業界の一員として非常にありがたい」としながらも、次のように述べている。
「企業は持続的な成長が求められていて、国の支援頼みにならないように戦略を考えていく必要がある」「企業が成長するには、利益が必要」。そして、「そのために、世界をリードする技術力、継続的に成長投資を図り、実現に必要な人材」の3点が重要だとしている。
立場上、「国の支援は不要」とは言えないだろうが、「成長のために利益が必要」との答えから、真意は明らかだ。
そして、「利益のために、技術と投資と人材が必要」という答えを見て、私は驚いてしまった。これは、経済成長理論の教科書に書いてあること、そのものではないか! そして、私が飽きもせずに繰り返し、実務家から「現実知らずの書生論」と馬鹿にされている答え、そのものではないか!
教科書どおりの答えを経営者から聞くことができたのは、1962年の特振法に対する石坂発言以来、62年ぶりのことだった。
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