立候補者の話に拍手を送る支持者ら=長崎県大村市で2024年4月16日午前10時16分、松本美緒撮影

 28日投開票された衆院3補欠選挙は、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を背景に、2補選での「不戦敗」を選択せざるをえなかった自民に厳しい現実を突き付けた。一方、有権者の関心は最後まで盛り上がらず、政治不信の高まりは収まりそうにない。

 3補選で唯一、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件が契機となった衆院長崎3区(長崎県大村市など)は、立憲民主党元職の山田勝彦氏(44)が日本維新の会新人の井上翔一朗氏(40)を破り、野党対決を制した。自民不在の選挙戦は両陣営に、自民への「批判」と自民支持層の「取り込み」という相反する戦略を余儀なくさせた。

 今回の補選は、裏金事件で立件された谷川弥一元衆院議員(82)が1月、辞職に追い込まれたのが要因だった。長崎3区は自民が長らく議席を得ていたが、小選挙区制での実施となった1996年以来、初めて自民は不戦敗を選択した。

 山田氏は「金権政治を許さない」などと裏金問題を真っ向から批判。政治資金規正法改正を巡る自民の姿勢を批判し「真の政治改革を進めるには、政権交代が必要だ」と訴えた。

 それと並行して山田氏は、五島や対馬、壱岐など離島の振興策として、島民以外も含む離島航路の低料金化などを主張。これらの離島は、「国境離島新法」の成立に動くなどした谷川氏が厚い地盤を築いていた。立憲も告示前から、泉健太代表や岡田克也幹事長らを相次いで離島に投入した。

 井上氏も「改革を実行するのは維新だ」とし「(維新が)議席を得なければ、自民と立憲の政治にまた巻き戻ってしまう」と強調した。半面、保守寄りの維新の政策は山田氏と比べ、自民支持層に受け入れられやすいとみて訴えを強めた。

長崎県の衆院選小選挙区

 ただ、県内に地方議員がいない維新の組織力の弱さは、選挙戦では致命的だった。県内の維新関係者は「維新が人間的なつながりを築けていない中、支持を広げるのは難しかった」と振り返る。

 自民を意識した両陣営の戦いぶりを、離島出身の自民県議の一人は「自民支持者には今回、選挙に行かない人も多い」と冷ややかに見つめる。

 小選挙区定数の「10増10減」で次期衆院選から区割りが見直されるため、現在の長崎3区での選挙戦は今回が最後となる見通しだ。新たな選挙区の構図がどうなるか先行きが不透明な中、ある自民県議が懸念を示した。「今回の補選で別の党の候補者名を書いた人が、次の総選挙は『自民』と書いてくれるか心配だ」【松本美緒、松尾雅也】

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