岸田文雄首相(自民党総裁)にとって28日投開票の衆院3補欠選挙で東京15区と長崎3区が不戦敗となり、与野党対決の島根1区も敗れたことで、今後の政権運営に大きな打撃となる。首相はこれまで、9月の総裁選前に衆院解散・総選挙に臨み、与党を勝利に導いた上で総裁再選を目指す考えだったが、戦略の見直しに直面している。

「今はとてもそんな状況じゃない」

4月中旬、首相は早期の衆院解散に打って出る可能性について、周囲にこう漏らした。

首相が解散戦略の展望を悲観的に語ったのは、東京15区と長崎3区で早々に不戦敗が決まり、唯一、公認候補を立てた島根1区でも強烈な逆風にさらされていたからだ。

選挙戦で、首相は自ら島根県内の地方議員や首長らに電話をかけ、公認候補への支持を呼びかけたほか、選挙戦最終日の現地入りを前日に急遽(きゅうきょ)、決断し、街頭演説にも臨んだ。だが、立憲民主党候補が優位に立つ展開は終盤まで続いた。

首相周辺ではこれまで、所得税・住民税の定額減税が行われる6月の衆院解散が半ば公然と語られてきた。9月の総裁選直前に衆院選で勝利すれば首相は民意を得た形となり、総裁選で有力な対抗馬の出馬を封じ、無風で乗り切れるとの計算からだ。

だが今回の補選は、仮に衆院解散を断行した場合、自民が大幅に議席を減らす可能性を首相に突きつけた。首相に近い党幹部は「議席を減らすような解散は反対だ」と言い切る。改めて政権の苦境が浮き彫りになったことで、首相周辺からも早期の解散を見送り、秋の総裁選へ突入するシナリオがささやかれている。

その場合、総裁選は衆院選や来年の参院選に向けた「選挙の顔」選びの色彩が強まるが、対抗馬になると目される石破茂元幹事長や小泉進次郎元環境相らは党内の支持基盤が弱い。また、茂木敏充幹事長らも世論の支持の広がりに欠ける。

一方で、今月の国賓待遇での米国訪問以降、低迷していた内閣支持率には底打ちの気配が出てきた。依然、解散の選択肢は残されており、首相は賃上げや減税に対する世論の動向も見極めながら決断することになりそうだ。(永原慎吾)

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