衆議院選挙で躍進した国民民主党が訴える年収「103万円の壁」撤廃について、自民党・公明党・国民民主党は本格協議を開始。その行く末に注目が集まっている。103万円の壁が取り払われ手取りが増えることで、雇用や企業の売り上げが増加し、消費も増えることで、税収減の分も補えるかという点もポイントになっている。
【映像】激論を展開するひろゆき氏と米山氏
国民民主党は所得税がかかり始める課税の最低ラインを178万円まで引き上げる案を掲げているが、これを全ての納税者に適用した場合、約7.6兆円もの税収減になると政府は試算している。一方で、立憲民主党は配偶者などの扶養から外れ、社会保険料の支払いが発生することで手取りが減ってしまう「130万円の壁」に注目し、減収分を給付で補う法案を提出。こちらは対象を「年収200万円未満」に限定することで、国民民主党案の約10分の1、約7800億円の予算で"手取りを増やす”ことを目指している。
消費者物価指数は30年前の1995年から約10%上がり、最低賃金は約1.78倍になった。「年収の壁」撤廃には、与野党ともに実現させる方向で進みつつある中、その基準をどこに設定し、どう一歩目を踏み出すべきなのか。『ABEMA Prime』では、SNS上で議論を交わしていた2ちゃんねる創設者のひろゆき氏、立憲民主党の衆議院議員・米山隆一氏が、意見をぶつけ合った。
■30年前から変わらない「103万円の壁」
そもそも「103万円の壁」とは何か。下限の給与所得控除額55万円と基礎控除48万円を合わせた数字で、収入を103万円以内に抑えれば所得税がかからない。最低限の生活を保障するためだ。また、106万円や130万円には、勤務先の規模によって、それぞれ社会保険料の負担が発生する、別の壁もある。公認会計士・税理士の山田真哉氏は「国が今、103万円と決めているが月額にすると8万5000円ではたして生活できますか、物価が上がっていて厳しいところで、国民民主党は“30年前から『103万の壁』が変わっていないので、最低賃金の上げ幅から計算して178万円、つまり月14万8000円ぐらいが最低限の生活費だ”と提案している」と説明。また企業が、年収100万円以下の配偶者がいる場合に、月1〜2万円の配偶者手当を社員出していれば、この壁を超えてしまうことで、手当がもらえず、結果的に手取りが減ってしまう問題もあると加えた。
衆議院選挙で議席を4倍の28議席に伸ばした国民民主党が、政策の柱として掲げているのが、この「103万円の壁」撤廃だ。自民党・公明党とは協議に入っており、また立憲民主党と野党間で協議もしていることから、壁の見直しは各党前向きと見られている。ただし、どの壁をどこまで打ち破るか、その手法については党によっても意見が異なっている。
ひろゆき氏は「(年収)180万円ぐらいまで働けるようになると、大和証券のレポートでは、だいたいの(国全体の)給料が3000億円から4000億円くらい増えて、これが懐に入る。これで物を買えば社会が回るし、年末の働き控えもなくなって中小企業の売り上げも増える。社会は経済で金が回って成長するもの。なんで今まで壁を低い額で止めていたのか疑問だ」と述べた。
「103万円の壁」撤廃には賛成ながら、国民民主党の掲げる178万円は約7.6兆円の税収減が見込まれるということで、慎重に進めるべきという立場を取るのが米山氏だ。「7.6兆円という減収はものすごい額で、今の日本の税収の10%を超える。税収に穴が空いてしまった分、全く何もせずにはできない。こっちで減税して、結局穴埋めのために増税したら、何もプラスマイナスがない」と、3000〜4000億円程度が手取りとして増えたところで、約7.6兆円という税収減をカバーするまでには至らないと語った。
その上で立憲民主党が打ち出しているのが、社会保険料がかかってくる「130万円の壁」の見直しで、手取りが減ってしまう部分を国が給付で補填する対象を年収200万円未満とすることで、税収減は7800億円に留めるというもの。米山氏は「物価だけ見れば1995年から10%しか上がっていない。10%の基礎控除引き上げだったら1兆円ぐらいという試算もあるし、それぐらいならどうにかなる。それをザーッと全員を178万円まで上げるというやり方はあまりに雑」とし、自身が発信するXにおいても「何か言ってくる人は、やはり『俺も減税してくれ』というもの。その人の年収はわからないが、空気としては、この人はたぶん170万円とかではなく、500万円とか600万円なのに『俺も10万円、20万円、減税してくれ』というものが来る。それはやりすぎなのではないか」と、直接受けた反応についても伝えた。
■ひろゆき氏「まず法案を通すべき」米山氏「一発勝負でやっちまえ、は太平洋戦争の大失敗の道」
今回の衆議院選挙をきっかけに、一気に注目された「103万円の壁」だが、これまでも議論がされていなかったわけではない。しかし、この30年間、基準がそのまま変わらなかった現実と、それは働き控えに繋がってしまっているという実態がある。米山氏は、立憲民主党が2月に130万円の壁撤廃を盛り込んだ補正予算案を出していたが、注目されなかったと主張する。「選挙が終わってからだいぶ注目されるようになった。だからと言って飛びついて慌ててやって、その7兆6000億円のすごい大穴を開けた時に、もう一回再増税はほぼ不可能。そんなことを言った途端に、もうその人は選挙で負ける。また延々と話すだけで決められない政治をしたいわけではないが、1年ぐらいの時間をおいてきちんと制度設計をしたらどうですかと思う」と慎重な姿勢を示した。
一方、ひろゆき氏は時期を逸することを警戒した。「とりあえず僕は法案を通すのを先にやるべきだと思う。要するに、みんなで議論しましょう、ゆっくり完璧な形を見つけましょうというのを続けて社会を変えないことを、ずっと日本がやり続けた結果が今。とりあえず一発やってみようぜ、という時に、ずっと議論し続けて結局何もしませんでしたという形になる可能性を危惧している」。
これに米山氏は反論。「それこそが日本が太平洋戦争に突っ込んだ道。アメリカとの交渉が膠着して、もうしょうがないから一発勝負でやっちまえで大失敗した。7兆6000億円は国の税収の10%で、ものすごく大きな変更を伴うようなこと。それをもうグズグズ考えていてもしょうがない、後で何とかなるだろうというのは、それこそ無責任だ」。
他の出演者からも、シミュレーションも含めて1回、壁を取っ払ってみるのはどうかという質問が出たものの、米山氏は「ものと規模感による。納税者のほぼ全員に、10万円から20万円の減税をすることになる。それを全部戻すとなったら、ほぼ全員から10万から20万の増税をしなければいけない。そんなことを言った途端に、その政党は勝てるとは思えない」と改めて語っていた。
納税者のほぼ全員の手取りを増やす政策として、国民民主党は多くの支持を集めたが、カンニング竹山氏は今回の議論などを受け、衆議院選挙の時点から深い理解が必要だったと振り返った。「僕らが勉強していなかったのが悪かった。国民民主党が103万の壁でバーンと選挙をやった時に、みんなが変わると思ってしまったところが、有権者のこちら側もちょっと勉強不足だった。やり方はあると思うが、そのやり方をどうするか。103万円をドーンとみんなでやりますというのは、ちょっと不可能じゃないかなと思っている」と、議論・協議が深まることで、国民民主党の案だけではない別の道を模索し始めたと述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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