自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件後、初の国政選挙となった衆院3補欠選挙は「政治とカネ」が最大の争点となる中、立憲民主党が自民の牙城を切り崩して圧勝し、次期衆院選へ弾みをつけた。特に島根1区は1996年の小選挙区制の導入以降、自民が議席を維持してきた保守王国で、岸田文雄首相は異例の2度の現地入りで総力戦を展開したのに敗北。国民の自民への強い拒否感が示されたことで、首相の責任を問う「岸田降ろし」が広がる可能性もあり、9月の党総裁選を前に深手を負った。(山口哲人、大野暢子)

◆立民・泉健太代表「次は白黒をはっきりつける総選挙」

 「次は政治改革に白黒をはっきりつける総選挙になる。早期の解散総選挙を求めていく」。立民の泉健太代表は28日夜、記者団にこう宣言し、次期衆院選での政権交代を見据えて攻勢を強める考えを示した。  これまで岸田政権で行われた衆参の10補選は自民が7勝、日本維新の会が1勝。立民は支援した無所属候補が2勝したが、立民の看板では勝てなかった。泉氏の手腕を疑問視する声もくすぶっていたことから、快勝に党内は勢いづく。  選挙戦では泉氏が前面に立って「裏金発覚から5カ月たつのに真相究明は進まず、処分も不十分。自民の政治改革案はあんが入っていない大福だ」と批判し、政治改革の必要性を強調。自民に愛想を尽かした保守層や無党派層を味方に付け、島根に加え、長崎3区と東京15区も大差で制して党勢復活を印象付けた。

◆立民の課題は「風頼み」と「野党共闘」

 それでも、立民が次期衆院選に向けて万全とは言い切れない。自民の裏金事件や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係など「敵失」が大きく、与党幹部から「追い風参考記録」と負け惜しみもこぼれる。

衆院補選で当選を確実にし笑顔でポーズを決める酒井菜摘氏(中)と手塚仁雄衆院議員(左)蓮舫参院議員

 多くの選挙区で立民の支持基盤が強固でなく、風頼みの状況は変わらない。補選では共産党が候補を降ろすなどして実質支援に回って立民候補の当選を後押ししたが、野党共闘を巡る足並みは乱れたままだ。  最大の支援団体の連合や国民民主党は共産との連携を拒絶する。野党共闘に否定的な日本維新の会は、289小選挙区のうち立民と100程度で競合し、馬場伸幸代表が「立民はたたきつぶす必要がある」と述べ、溝は深い。政権批判票の分散で野党が共倒れとなって自民が勝利する恐れもあり、立民の野田佳彦元首相は関東を立民、関西を維新ですみ分けるよう訴える。

◆「岸田おろし」か4万円定額減税で「再浮上」か

 一方、自民の茂木敏充幹事長は28日夜、記者団に「大変厳しい結果だ。国民の信頼を回復できるよう努める」と敗戦の弁を述べた。党内からは、逆風の強さを目の当たりにして「低支持率のトレンドが止まらず、岸田首相の下で選挙はやれないよ」(中堅議員)との声も。首相側近の木原誠二前官房副長官は「政権交代が起こってもおかしくない状況」と率直に認める。  首相が低空飛行を抜け出す切り札として期待を寄せるのは、6月に実施する国民1人当たり4万円の定額減税だ。選挙戦でも「家族5人なら20万円の減税を用意し、児童手当も拡充して所得を下支えする」と家計支援策のアピールに力を入れたが、裏金事件で政治不信を募らせる有権者は簡単にはなびかなかった。  「選挙の判断の中に、私の政治に対する姿勢も評価の対象に入っている」と明言していた首相。裏金事件で実態解明や政治改革に指導力を発揮せず、自らの処分も避けた首相に国民が明確にノーを突き付けたことで、求心力がさらに低下するのは確実だ。 

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