「時給1500円」は高い?安い?
政府が“最低賃金1500円”を5年以内に達成すると掲げているが、本当に実現できるのだろうか。
■【動画で見る】『最低賃金の時給1500円』「非現実的」「会社も消えてなくなる」と企業
■上昇する最低賃金 昨年度は全国平均が初の1000円超え
この記事の画像(6枚)大阪で聞いた!今の時給、おいくら?
アルバイト(大学生):最低賃金、1114円です。最近上がりました。
Q.上がってどうですか?
アルバイト(大学生):上がったけど、物価には追いついてない感じがある。
アルバイト(大学生):今は1210円。
Q.今の時給はどう?
アルバイト(大学生):う~ん、まぁまぁ、いい方かなと思っています。
アルバイト:今1300円です。
Q.どれくらいの時給になってほしい?
アルバイト:高ければ高いほどいい。とりあえず1400円を目指してがんばろうかな。
大阪で時給1000円以下は、昔の話。最低賃金は年々上昇し、2023年度、全国平均が初めて1000円を超えた。
今年度は、10月1日の改定で1055円に。プラス51円は、過去最大の上げ幅だ。
そして、これに留まらず、政府が今掲げているのが…。
石破 茂首相:最低賃金を着実に引き上げ、2020年代、“全国平均1500円”という高い目標に向かって、たゆまぬ努力を続けます。
最低賃金、時給1500円!しかも、5年以内に…。
実はこの金額、政府だけでなく、立憲民主党、共産党などの野党も衆院選の公約で掲げていた。
■人件費が2億8000万円に?「会社も消えてなくなる」
しかし、給料を支払う側からはこんな声が。
フレッシュマーケットアオイ 内田寿仁社長:政治家もある意味、人気取りの政策を言っておられて、現実、票稼ぎの政策の側面もあるでしょうから。
厳しい言葉を並べるのは、大阪市阿倍野区のスーパー、フレッシュマーケットアオイの内田社長。
アオイでは最低賃金の改定に合わせ、10月から時給を50円アップの1130円に。これによって、年間の人件費はプラス1000万円、およそ2億円になった。
仮に時給が1500円になったら、人件費は8000万円も増え、およそ2億8000万円となる。
Q.2億8000万円の人件費についてどう思われますか?
フレッシュマーケットアオイ 内田寿仁社長:現実的じゃないというか、今の状態のままだと、うちの会社も消えてなくなるぐらいのコストアップ。
実現のための策の一つは、商品への価格転嫁だが…。
例えば、ラーメン店の経営を保ちながら時給1500円を実現するには、一杯どれくらいの値上げが必要になるのだろうか。
OMO島田隆史社長:現在価格は大体990円税込み、それが1500円くらいにならないと、時給をこれだけ上げるのはできない。
ラーメン業界には「1000円の壁」、つまり1杯が1000円を超えると客に敬遠されるおそれがあり、なかなか厳しいのが実情だ。
雇用労働に詳しい専門家が懸念するのも、「短期間での急激なアップ」による人件費の圧迫。
しゅふJOB総研 川上敬太郎研究顧問:5年で1500円はかなりハイペース。大丈夫かなと心配ではあるペース。どういう根拠に基づいて2020年代とおっしゃったのかが見えない。
■「徳島ショック」全国最大の上げ幅の裏には“人口流出”
実は「急激な時給アップ」を今、まさに実践している県がある。それは徳島県だ。
2023年度の最低賃金は全国ワースト2位。そこから急激アップを果たし、「徳島ショック」と言われるほど。
11月の改定で980円になり、84円という全国最大の上げ幅だ。
街の人から聞こえて来る声も、弾んでいるようす。
徳島県の大学生:基本給が940円から1020円、80円上がりました。めちゃくちゃありがたいです。
徳島県の大学生:時給上がりました。上がった分はクリスマスまでに彼氏が欲しくて、自分磨きをがんばろうかなって。美容院行ったり、コスメ買ったり、お洋服買ったりしようかなって。
「徳島ショック」をもたらしたのは、この人の強い危機感だった。
徳島県 後藤田正純知事:賃金っていうのは、極めて生活に関係する。そして、それは地方の存続というものに関係するもの。
徳島県が直面しているのは、歯止めがかからない人口流出。さらに、賃金が高い兵庫県や大阪に働きに出る人もいる現状がある。
徳島県 後藤田正純知事:人材確保を是が非でもやらなきゃいけない。これはもう大競争なる“地方創生戦国時代”。そのために徳島の働き方、給料は素晴らしいんだと、こういう環境をまず作るっていうことですね。
知事に最低賃金を決める権限はないが、後藤田知事は、審議会に異例の要請を繰り返し、結果、徳島県の最低賃金はワースト2位から27位に急上昇した。
■企業は賃上げ賛成も「上げるスピードが早い」
「徳島ショック」を、企業側はどう受け止めているのか。
タンタンヨーグルト工房 大上順市代表:(賃金アップは)むしろ大賛成なんですが、ちょっと賃金の上がり方のスピードがあまりにも早すぎやしませんか、というところ。
ヨーグルトの製造・販売を行う会社では、11月からパートの時給を900円から1000円に上げ、人件費の占める割合が10%増えた。
その分、もうけを増やしたいところだが、人件費増を受けて、予定していた業務用冷凍庫の購入をやめた。
タンタンヨーグルト工房 大上順市代表:設備投資として貯めておいたお金を取り崩しながら、人件費に回していく事になっていくだろうと思うので、設備投資ができるかが不安ですね。
「徳島ショック」の実情を見ると、現状の全国平均から400円以上アップしないと達成できない“最低賃金1500円”という政府の目標は、夢のまた夢なのだろうか。
しゅふJOB総研 川上敬太郎研究顧問:目指す数字としてはいい数字だと思うし、時給1500円に見合うような生産性を高めましょう、ということになっていけば、企業の生産性が上がるので、さらに商売がもうかって、売上利益を上げれば、すごくいい循環がまわる。
好循環に乗れるのか…。“最低賃金1500円”の実現には、これがカギとなりそうだ。
■時給1500円の目標を出すだけではなく、経済対策、景気対策をセットで
ジャーナリスト 鈴木哲夫さん:循環なんですよね。賃金だけが上がっても、企業が儲けていなければ、企業がお金払うのが大変になっちゃう。全部がよくないと、循環が必要。
10月の中小企業の倒産は、ものすごく増えているんですよね。30カ月連続で去年の同じ月をずっと上回ってるぐらい。原因は何かっていうと、原材料が高い。物価高。それから円安もある。(新型コロナ対策の)ゼロゼロ融資、企業は借りたお金を今でも返そうとしている。中小企業は、時給1500円も出すのは無理だよっていうことで潰れちゃっている。
政府として、時給1500円(の目標)を出すのはいいんだけど、同時にその企業の経済対策、景気対策とかをセットでやっていかなきゃいけない。それからどうしても(時給アップが)厳しいのであれば、介護士などの公的な仕事の賃金を上げていって、全体の空気を底上げするとか。
政府は時給1500円と掲げるだけじゃダメ。(経済対策を)セットでして、循環していく責任が石破さんにはあります。徳島はやっぱり時給をあげることによる起業支援の予算もつけてるってことなんでね。でも、一自治体じゃないですか。国がやらなきゃダメ。
(関西テレビ「newsランナー」2024年11月20日放送)
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