自民党は静岡県知事選(9日告示―26日投開票)で元県副知事の大村慎一氏を推薦する方針だ。立憲民主党などが推す候補と与野党対決になる。自民党が4月の衆院3補欠選挙に続いて敗北すれば、9月の党総裁選での岸田文雄首相の再選戦略への影響は避けられない。選挙戦の行方は一地方選以上の意味を持つ。
県知事選は川勝平太氏の辞職に伴う。元総務官僚の大村氏と前浜松市長の鈴木康友氏による事実上の一騎打ちとなる公算が大きい。鈴木氏は元民主党衆院議員で、立民や国民民主党が後押しする。
自民党静岡県連の城内実会長は4月下旬、党本部で茂木敏充幹事長などと面会して党本部の推薦を求め、茂木氏らは態度を保留していた。大村氏は公明党にも推薦を求め、同党は自主投票を決めた。
自民党内で推薦を出すかどうか意見は割れた。党派閥の政治資金問題による逆風が続くなかで党本部が推薦を出せば、かえって大村氏が無党派層などの支持を失うリスクがあるとの見方があった。
自民党は4月の衆院3補選で不戦敗も含めて全敗した。「政治とカネ」の問題を受けて党への有権者の不信感が浮き彫りになった。「保守王国」の島根1区では1996年に始まった小選挙区制下の衆院選以降、初めて議席を失った。
その直後に迎える知事選にどう臨むかは政権党にとって難しい判断となる。自民党幹部の一人は「党本部の推薦を出して負けても、推薦を出さないで不戦敗になっても自民党の負けという意味で同じだ」と言及した。情勢調査などを踏まえ、大村氏と鈴木氏が拮抗するとの見方を示した。
静岡県知事選は国政選挙ではないものの、自民党の敗戦が続けば党勢の低下を印象づけかねない。複数の自民党議員の脳裏をよぎるのは3年前の菅義偉政権末期の状況だ。
自民党は2021年4月、衆院北海道2区、参院長野選挙区、参院広島選挙区の3補選・再選挙で不戦敗を含めて全て敗れた。さらに8月にあった横浜市長選で菅氏が支援した小此木八郎元国家公安委員長が負けた。
横浜は菅氏の地元だったため、菅氏の求心力の低下を決定づける結果となった。翌9月、総裁選に出馬しないと表明した。
21年の静岡県知事選で自民党は12年ぶりに党本部の推薦候補として元参院議員を擁立したものの、川勝氏に敗れた。
静岡を地盤とする自民党議員のスキャンダルも相次ぐ。安倍派(清和政策研究会)座長だった塩谷立氏が4月下旬、政治資金問題で党処分を受けて離党した。同じころに宮沢博行氏も女性問題を報じられて議員辞職に追い込まれた。
静岡は岸田首相の地元ではなく、3年前とは同列で議論できない点もある。一方で永田町はこうしたアナロジー(類比)を意識する傾向がある。
首相の党総裁としての任期は9月に満了を迎える。首相に近い自民党幹部は「党推薦候補が敗れるようだと3年前と同じ顚末(てんまつ)を意識する人が増える」と語る。
野党は立民と国民民主が鈴木氏を推薦する。両党を支援する連合も地方組織が同氏の推薦を決めた。共産党は森大介氏を立てる。諸派の横山正文氏、無所属の浜中都己氏と村上猛氏も立候補を表明している。
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