自民党は17日、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の法整備に向けた議論に着手した。政府が攻撃サーバーの無害化など4項目の論点と諸外国の対応状況を提示した。早ければ秋に想定する臨時国会に法案提出を目指す。憲法などとの整合性について調整を急ぐ。

政府は党安全保障調査会やデジタル社会推進本部などが合同で開催した会議で法案の検討状況を説明した。最近のサイバー攻撃の事例についても紹介した。

安保調査会の小野寺五典会長は交通ICサービス「モバイルSuica(スイカ)」のシステム障害はサイバー攻撃が原因との可能性に触れた。「日本が攻撃されているのに情報がなく、諸外国が実は知っているということがあってはならない」と指摘した。

政府は5月中に有識者会議を立ち上げる方針で、政府・与党で議論を本格化させる。

サイバー防御を巡っては2022年に決定した国家安全保障戦略で検討項目を列挙した。①官民連携の強化②通信事業者の通信情報の活用③攻撃サーバー等に対する無害化措置④内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の発展的改組――を軸に議論する。

能動的サイバー防御は国が平時から通信を監視し、基幹インフラへの攻撃などの兆候を探り、兆候段階で相手のシステムに入って対処する仕組みを指す。

足元でNISCや先端技術を扱う宇宙航空研究開発機構(JAXA)への不正アクセスも相次ぎ報告された。対策の強化が課題になっている。

5月には経済安全保障上の「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の制度を盛り込んだ新法が成立した。機密保全制度の実効性を担保するためにもサイバー対策が必須となる。

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平時からの通信の監視を巡っては憲法21条の「通信の秘密」との整合性が課題となる。

攻撃元のサーバーに侵入する行為は不正アクセス禁止法に抵触するとの指摘がある。相手サーバーを無害化するためのウイルス作成は刑法の「不正指令電磁的記録作成罪(ウイルス作成罪)」に該当するとの見方もある。

ロシアによるウクライナ侵略を例に「現代の戦争はサイバー戦から始まる」との主張がある。日米両政府は2019年、対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条がサイバー空間にも適用されると申し合わせた。サイバー空間の「自衛権」も論点に浮上する。

サイバー対策を指揮する司令塔の役割や高度人材の育成も重要となる。米欧は優れた人材の官民交流を促す取り組みを進める。司令塔組織の制度設計や官民連携のあり方も法整備にあわせて議論の対象にする。

政府は能動的サイバー防御を取り入れる米国や英国、ドイツ、オーストラリアなどの制度概要を示した。主要国は官民の情報共有や政府のサイバー対応機能の一元化などを図る。日本は法案の検討にあたって海外の先行事例を参考にする。

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