核軍縮に焦点を当てた先進7カ国(G7)首脳による初の共同文書「広島ビジョン」が広島サミットで発表されてから19日で1年。岸田文雄首相は「核兵器のない世界」を「究極の目標」としたビジョンの実現を引き続き訴えているが、道のりは険しいままだ。ウクライナに侵攻したロシアが核兵器使用も辞さない構えを見せるなど、核軍縮への機運は高まっていない。
首相は核軍縮をライフワークと位置付け、昨年5月、バイデン米大統領らG7首脳を被爆地・広島に招いてサミットを開催。初日に原爆資料館をそろって視察し、広島ビジョンを発表した。ロシアに対し「核兵器の使用の威嚇、いかなる使用も許されない」と明記。中国の核戦力増強、北朝鮮の核開発を批判した。
日米首脳は今年4月に発表した共同声明で、広島ビジョンを核なき世界の実現に向けた「歓迎すべき貢献」と改めて評価した。
しかし、核をめぐる世界の状況は厳しさを増している。ロシアのプーチン大統領は5月、欧州を射程に収める戦術核兵器の演習実施を指示した。隣国ベラルーシも参加する見通しで、日本政府関係者は「核兵器のない世界に逆行する動きだ」と警戒する。
プーチン氏は16日、北京で中国の習近平国家主席と会談し、両国の連携をアピール。ロシアは北朝鮮との軍事協力も深め、東アジアの安全保障環境も一段と悪化している。
パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスへの攻勢を強めるイスラエルでは昨年11月、閣僚が「原子爆弾の投下が一つの選択肢」と発言。事実上の核保有国であるイスラエルは、核開発を続けるイランと互いに直接攻撃し合うなど中東の緊張は高まった。
米国も今月、約2年8カ月ぶりに核爆発を伴わない臨界前核実験を実施した。
首相は6月にイタリアで開かれる今年のG7サミットで重ねて核軍縮を呼び掛ける方針。これに先立ち日本政府は、核なき世界の実現に向けて有識者が話し合う国際賢人会議の第4回会合を今月21、22両日に横浜市で開く。林芳正官房長官は17日の記者会見で「引き続き広島ビジョンを強固なステップ台としつつ、現実的で実践的な取り組みを継続・強化していく」と述べた。
平和記念公園で原爆死没者慰霊碑への献花を終え、記念撮影に納まる(左から)トルドー加首相、マクロン仏大統領、岸田文雄首相、バイデン米大統領、ショルツ独首相=2023年5月19日、広島市中区
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