若い子育て世代が
浸水被害があった地域でも
専門家「開発抑制の仕組みが必要」
「いつどこへ避難するか」一人ひとりが決める
分析の詳細について
愛媛県では6年前の西日本豪雨で川の氾濫や土砂災害などが相次ぎ、災害関連死の6人を含む33人が亡くなり、建物の被害は6600棟余りにのぼりました。西日本豪雨のあと、愛媛県内の浸水リスクのある地域でどれほどの人口変化があるのか。10年から100年に一度の大雨が降った場合の川の氾濫で、床下浸水以上の深さの浸水が想定される区域の人口変化を独自に分析しました。
分析には5年に一度実施される国勢調査のデータを使い、愛媛県内の西日本豪雨前の2015年の時点の人口とことし公表された豪雨後の2020年時点の人口を比較しました。
その結果、浸水リスクのある区域の人口は県全体で見るとおよそ1300人減少していた一方、松山市では豪雨の前よりも1200人余り増えていることが分かりました。
松山市で人口が増えた場所の1つ、南部にある地区の多くでは50センチ以上の床上浸水が想定されています。
その一方で、スーパーやドラッグストアが近くに立地しているほか、ことし自動車専用道路が開通したことなどで、市内中心部から20分ほどとアクセスが良いのも特徴で若い子育て世代を中心に住民が増えています。
浸水のリスクをめぐっては2020年、不動産業者が土地や住宅を取り引きする際には契約相手に対してハザードマップを提示しリスクを説明するよう義務づけられましたが、住民からはリスクを認識しつつも利便性が高く住みやすいという声が聞かれました。
30代男性 3年前 戸建て住宅を購入「スーパーが近いので重宝しています。災害のリスクは怖いので、避難所などは確認していざというときに家族でどう動くのかは意識しています」
20代女性 4年前から居住 子ども生まれたばかり「周りにも小さい子どもがいるので、少し騒いでも気にすることがないのが住みやすいです。災害の不安はありますが、避難所が近くにあるので安心感はあります」
20年前、この地域は住宅の建設などが規制される「市街化調整区域」から、開発が可能になる「市街化区域」に編入されました。県によりますと、街づくりに防災の観点を取り入れるようになったのはこの10年ほどで、「市街化区域」に編入された地域を、再び「市街化調整区域」に指定する事例は県内にはないということです。
「松山市内では地価が比較的低い郊外のエリアが若い世代に人気がある。開発できる農地が残っていたことで、土地の価格を安く提供でき人口の増加につながっている。建築コストも高騰しているので住宅購入の総額を抑えるため、比較的安価な土地に集中する傾向もあり、浸水の影響を見て土地を選ぶという傾向は少ないと思う」
西日本豪雨で大きな被害を受けた地域でも人口が増えている場所があります。
大洲市は西日本豪雨で川が氾濫するなどして、およそ2900棟の住宅が被害を受け、災害関連死も含めて5人が死亡しました。
浸水リスク区域の人口は、大洲市全体では豪雨の前から減少した一方、浸水のリスクがある区域で最大でおよそ70人増えるなど、人口が増えている地区が複数ありました。その1つは西日本豪雨で浸水被害がありましたが、最近も戸建て住宅などが増えています。
近くに高速道路のインターチェンジのほか、商業施設や病院などもあって利便性が高いとして移り住む人が多いといいます。
71歳男性 去年神戸市から移住「定年後に妻の地元の大洲市に引っ越すことにしましたが、実家は土砂災害の危険がある地域であり、利便性のいいこの地区を選びました。もともと浸水しやすい地形であふれてもしかたないかなと思っています」
大洲市によりますと、もともと農地が広がっていたこの地区では高速道路の整備などに伴い1997年から開発が始まったということです。以前から浸水のリスクも想定されてきましたが、民間の業者によって農地から宅地への転用が続いているといいます。一方、西日本豪雨の後も堤防が整備されるなど防災対策も進められていて、市は浸水のリスクは下がっていると考えています。
「堤防などの整備により西日本豪雨と同じ雨は防げるようになっているが、それ以上の雨が降ることも考えられるので、その時には避難の準備など住民自身の対策も必要になると思います」
・災害リスク区域での人口増加について「東京や大阪などの大都市や地方都市でも起きていて全国的な傾向だ。中心市街地は土地の売買や新規の開発がほとんどされず地価も高止まりしている傾向にある一方で、郊外は開発もされておらず地価も安いため、住宅を購入する若い世代にはリスクがあっても魅力的だ」・規制など対策は「災害リスクのある地域で人口が増えていることには非常に問題で、市町村が開発を抑制できればいいが、人口減少社会では市町村の間で人口の取り合いになっていて規制することが難しい。市町村以上の大きな単位で開発を抑制する仕組みが必要となってくるだろう」・住宅を購入する人へ「住んでいる場所のリスクをしっかりと認識して避難の手順などを確認することも重要だし、被災時の経済的な被害も無視できないので、保険に加入することなども必要だ」
そうしたリスクを認識したうえで、住民自身による備えも重要だとみずから備える動きも出ています。
愛媛県西予市野村町のうち、およそ40人の住民のほぼ全員が土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域の中に暮らす集落では、これまでも頻繁に土砂崩れが起きています。
市が避難所として指定している公民館につながる5キロほどの山道では、6年前の西日本豪雨の際も数か所で土砂崩れが起こり通行止めになりました。災害時は避難所まで行くのが難しいことも想定し、集落の中にある集会所を一時的な避難場所としていますがそばに急斜面があります。
地区ではいま、災害時の対応について月に1回程度の話し合いを重ねていて、どこにリスクがあるのかや、比較的、安全なのはどこなのかなどを洗い出しています。今年度中には一人ひとりがどのタイミングでどういう防災行動を取るか決めた「マイ・タイムライン」を作成する予定です。
さらに専門家と協力して、斜面の傾きの変化をリアルタイムで計測して通知するセンサーを集落内の10か所に設置し、わずかな傾きから土砂災害の兆候を知ることができないか検証しています。
「こうした場所に住んでいる以上、危険性と隣り合わせだと理解して備えていく必要がある。1人1人が備えを考えておくことが命を守ることにつながっていくと思う」
国勢調査の250メートルメッシュデータと、洪水浸水想定区域のうち計画規模(10年から100年に一度の大雨による浸水想定)のデータを、地図上で重ねた。地区の一部が浸水する場合は、その面積の割合に応じて浸水被害を受ける住民の数を推計し、西日本豪雨前の2015年時点の人口と、豪雨の後の2020年時点の人口の増減を計算した。
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