二重被災で再び避難所に
がけ崩れや土石流など約1900か所と推定 防災科研
専門家 “複合災害確認 今後も注意必要”
石破首相 被害状況を視察「激甚災害」指定の考え示す
先月21日の記録的な大雨で石川県能登地方では、川の氾濫や土砂崩れが相次ぎ、多くの建物が浸水被害を受けました。石川県によりますと5日の時点で、輪島市と珠洲市、能登町の3つの市と町の33か所に避難所が開設され、あわせて494人が避難しています。今回の大雨では、能登半島地震で被災した人が暮らす仮設住宅団地のうち輪島市で5か所、珠洲市で1か所のあわせて6か所で床上浸水の被害が出ました。地震で被災しさらに大雨の被害を受けて再び避難所に戻らざるを得ないケースが相次いでいます。石川県は床上浸水の被害が出た6か所すべての仮設住宅団地について、年内をめどに再び入居ができるように復旧工事を進める方針です。輪島市によりますと避難生活を続ける被災者に高齢の人が多く、医師や保健師などが避難所をまわって体調に変化がないか確認を続けています。また、市はNPOと連携して被災者からの相談に応じたり精神的に落ち込みがないか聞き取りをするなど支援を行っています。
地震で被災した後に再び大雨による被害をうける二重の被災によって避難生活を余儀なくされている人からは、早く落ち着いた生活に戻りたいという声が聞かれました。輪島市の河原田小学校に開設された避難所で生活する池田清さん(77)と妻の秀子さん(74)です。地震で被災し輪島市の仮設住宅団地「宅田町第2団地」で息子と3人で生活していましたが、先月21日の大雨で近くを流れる川が氾濫し、仮設住宅団地の140戸余りすべてが床上まで水につかりました。
池田さんたちがいた仮設住宅も泥につかり片づけをしていたものの、玄関の床が浮きあがるなど被害が出たため再び避難生活に戻ってしまいました。池田清さんは「落ち着いたと思ったら今度は水害が起きて、本当にみじめな気持ちです。今でも雨が降ると不安になります」と話していました。秀子さんは「避難所ではまわりの生活音が気になって眠りが浅い日が続いています。仮設住宅でようやく安心して眠れるようになったやさきの今回の水害でした。今は落ち込まないように前を向きながら生活をしていこうと思います」と話していました。
被災者の支援などを担当する輪島市企画振興部の山本利治部長は「避難を続ける被災者は高齢者の割合が高く、今後、体調を崩す人が増えるのではないかと懸念している。地震で被災してさらに大雨の被害も受けた人も多く体力的につらいだけでなく精神的にも追い込まれているという声が相次いでいる。冬が近づくと能登地方は気温が低下するので、寒さへの対策も重要だと考えている。浸水被害を受けた仮設住宅に再び入居できるまで今から3か月近くかかる見通しなので、2次的な被害、いわゆる災害関連死を防ぐために体調管理などのケアを徹底したい」と話しています。
能登半島の記録的な大雨でがけ崩れや土石流などが起きた場所を、防災科学技術研究所が人工衛星のデータから推定した結果、石川県輪島市と珠洲市の一部であわせておよそ1900か所にのぼることがわかりました。能登半島地震で起きた数に迫っているとした上で、「今後の雨で再び流出する可能性もあり、対策に役立ててほしい」と呼びかけています。防災科学技術研究所は輪島市と珠洲市のいずれも北側を対象に、元日の地震の前後と先月21日の大雨の前後を撮影した人工衛星のデータを解析し、斜面の樹木などの状況の変化からがけ崩れや土石流などで土砂が流出したとみられる場所を推定しました。
その結果、地震によるものがおよそ2200か所だったのに対し、大雨によるものもおよそ1900か所にのぼりました。合計の面積は地震によるがけ崩れの規模が大きいことから、地震によるものが5.8平方キロメートル、大雨によるものが2.6平方キロメートルとなっています。地域ごとにみると、輪島市の門前町や町野町、珠洲市の日置地区や大谷地区で特に密集して発生していました。輪島市美谷町やその周辺では、地震より、大雨による土砂流出の方が密集して起きていて、地震で崩れなかったものの、大雨で新たに崩れた場所もあったとみられます。
防災科学技術研究所水・土砂防災研究部門の秋田寛己特別研究員は、「これだけ広範囲に土砂が流出するのは過去の災害事例を振り返ってもほとんどないような現象だ。山間部では川に土砂が堆積して今後の雨で再び流出する可能性もあるので、二次災害を防ぐ対策などにデータを活用してほしい」と話しています。解析結果は防災科学技術研究所のホームページにある「防災クロスビュー」で公開されています。
能登半島地震とその後の記録的な大雨について、画像解析の専門家が上空から撮影した写真などをもとに地震と大雨、それぞれで発生した土砂災害を解析し立体地図にまとめました。石川県輪島市町野町など、地震によって崩落した下流側で大雨によって崩れたり、土石流のように流れたりと複合災害になっている状況が確認され、今後も注意が必要だと指摘しています。東京大学大学院の渡邉英徳教授は、国土地理院が上空から撮影した写真などから元日の地震と先月21日の記録的大雨、それぞれの被害を把握できるよう土砂災害の状況を分析し、3Dで表示する地図を作成しました。このうち輪島市町野町では、地震によって斜面が崩れたことを示す赤い色の下流側に大雨のあと、斜面崩落や土石流が起きたことを示す、青色の部分が広がっているところが複数、確認されました。地震で崩れた斜面と大雨で崩れた斜面が隣り合っているのは、珠洲市の日本海に面した地域でも確認され、渡邉教授は、元日の地震で斜面が崩れたり地盤が弱くなったりしたところに大雨が降り、被害が拡大した可能性があると指摘しています。また、輪島市稲舟町では元日の地震で住宅地に近い斜面に亀裂が入ったり、崩れたりしたあと大雨でさらに崩壊が拡大しているとして、ほかの住宅地の斜面でも注意が必要だと指摘しています。渡邉教授は「すでに土砂崩れがあった地域だけでなく周辺でも地盤が緩んでいるとみられ、今後、雨や雪が降ると、さらなる土砂崩れや雪崩が起きるおそれがある。近くに住む方々はいつでも避難できるよう注意が必要だ」と話しています。
石破総理大臣は、就任後初めて石川県能登地方を訪れて地震や大雨による被害状況を視察し、今回の大雨による災害を「激甚災害」に指定する考えを示しました。また「防災庁」の設置に向けた準備を急ぐ考えを示しました。石破総理大臣は、5日、就任後初めての地方出張として石川県の能登地方を訪れました。このうち輪島市では先月の記録的な大雨で川が氾濫し住宅が流された現場を視察したあと、避難所となっている体育館で被災者と意見を交わしました。この中で被災者の女性が「地震の被害と水害でダブルパンチだ。輪島を見捨てないでほしい」と訴えたのに対し、石破総理大臣は「避難所の環境をよくしたい。心が折れそうになったときにできるだけいい環境を作るのは政府の仕事だ」と応じました。また、珠洲市では大雨で浸水した仮設住宅を訪れ、被害の状況などを聴き取りました。一連の視察のあと石破総理大臣は、今回の大雨による災害を国が復旧にかかる費用を支援する「激甚災害」に指定する考えを示しました。さらに、政府は、半壊以上の家屋の解体費用の自己負担をゼロにするほか、土砂災害などの復旧工事が難しい場合、県に代わって国が行うことにしています。
石破総理大臣は記者団に対し「日本国中どこで何が起きても同じ支援が受けられるよう内閣として尽力していく。まず内閣府の防災担当の予算、人員を飛躍的に拡充し『防災庁』を創設する」と述べ、準備を急ぐ考えを示しました。
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