元衆院議員の菅野志桜里氏

香港で審理中の香港国家安全維持法(国安法)を巡る裁判で、被告の「共謀者」として元衆院議員の菅野志桜里氏が名指しされているのは、日本に対する主権侵害に当たるとの議論が国会で提起されている。日本政府は、香港当局に「関心表明」をしているが、議員からは踏み込んだ対応を求める声が出ている。

香港で国安法違反罪(外国勢力との結託)に問われているのは、中国政府に批判的なことで知られた香港紙、蘋果(ひんか)日報(アップルデイリー)の創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏。

検察の冒頭陳述などによると、菅野氏は国民民主党の衆院議員当時の2020年、黎氏側の指示を受けた香港民主活動家、李宇軒氏と接触し、深刻な人権侵害に関与した個人・団体に制裁を科す「マグニツキー法」の日本での制定を巡って英国の人権活動家らと謀議したとして、黎氏の共謀者とされている。

菅野氏は黎氏と面識がなく、「SNSでコンタクトを取ったこともない」と共謀を否定している。ただ、国安法は外国人の香港域外での活動も処罰対象としており、菅野氏が中国や香港、中国と犯罪人引き渡し条約を結ぶ第三国に渡航した場合、同法違反容疑で拘束される可能性は否定できない。

与野党の国会議員でつくる「人権外交を超党派で考える議員連盟」は「日本の国会議員による平和的な言論を『外国勢力との結託』等の罪名のもと刑事裁判の対象とすることは、日本の民主主義プロセスへの露骨な介入で、日本の主権を侵害する行為だ」と非難している。

同議連会長の舟山康江参院議員(国民民主)は、3月6日の参院予算委員会で政府に事実関係を質問。上川陽子外相は「わが国主権の侵害に当たるかも含め、個別具体的な状況を見極める必要がある」と述べるにとどめた。

4月18日の衆院本会議では議連メンバーでもある国民民主の玉木雄一郎代表が、岸田文雄首相に「日本の国会議員の正当な政治活動が他国で犯罪化されることは、国家主権、国民の自由の侵害で絶対に看過できない」として抗議するよう求めた。

首相は「香港当局に対して関心表明を行っている」と説明。「わが国の国会議員の言論の自由が保護されるよう、毅然と対応していく」と述べたが、主権侵害であるとの認識や抗議するとの考え示さなかった。

菅野氏は「首相が本会議という最も重たい公の場で、関心表明をしたこと自体は評価すべきだと思う」としつつ、「関心があるのに抗議しないのは、黙認と受け取られかねない。時機を逸さず抗議を表明してほしい」と話している。