気候風土に根付いた日本家屋の特徴
住宅をはじめ、旅館や寺院の入り口、飲食店の座敷などで靴を脱ぐ日本の習慣は、今では海外でもよく知られている。床にじかに座って食事をしたり、布団を敷いて寝たりして暮らしてきたので、古くから土足厳禁が根付いたのだ。
屋内で靴を脱ぐ習慣は他の国にもある。しかし、「玄関土間」や「たたき」と呼ばれる履物を脱ぐスペースと、屋内を分ける“段差”があるのは、日本家屋の特徴といえるだろう。
玄関の各部名称
家庭の玄関 PIXTA
- 玄関土間・たたき:履物を着脱するスペース。
- 上がりかまち:家の内外を分ける段差部分。履物を着脱する際に腰掛けたり、ほこりが入るのを防いだりする役割もある。
- 式台・敷台:上がりかまちに高さがある場合、ステップとして設ける。
- 玄関ホール:屋内の床。訪問客はここでスリッパを履く 。
夏は高温多湿、冬は乾燥する日本では、古くから調湿性に優れた木造家屋が主流だった。床下の木材が湿気で傷まないよう高床式の構造にするため、玄関には段差が生じる。この部分を「上がりかまち」といい、化粧材を取り付けることが多い。
構造上は床を上げる必要のない集合住宅にも、履物を脱ぐスペースの目印として上がりかまちを設置するのは、「汚れをウチ(内/家)に入れたくない」という清浄意識の表れといえる。神社の鳥居と同様に、家の玄関は心理的な結界のようなものでもあるのだ。
訪問相手がさほど親しくはなかったり、短時間の用件だったりすれば、玄関で応対することが多い。簡易的な応接スペースになるので、壁やげた箱の上に絵画や写真、花などを飾る家もある。
げた箱は飾り棚のような扱いに
汚れを持ち込まない心遣い
訪問先に上がる際には、汚れを室内に持ち込まないよう素足は避けたほうがいい。サンダルなど素足で外出することが多い夏場は、ソックスをバッグにしのばせておけば、いざという時にマナー違反を避けることができる。わらじや草履が一般的だった近世には、訪問者は土間で足を洗ったり、きれいな足袋に履き替えたりしていた。
訪問先の玄関口でコートを脱ぐのも、外の汚れを持ち込まないため。また同じ理由で、手土産は風呂敷や手提げ袋から取り出してから持ち込み、室内で正式にあいさつしてから手渡すこと。鉢植えや生ものの場合は、土や匂いを居室に入れないように玄関先で渡そう。
靴を脱ぐ時やそろえる時は手を使い、出迎えの人にお尻を向けないことに気を付けたい。
訪問先での履物の脱ぎ方
イラスト=さとうただし
- 出迎えてくれた相手から遠い側の足から履物を脱いで上がる。(万が一よろけても相手に接触しにくいため)
- 靴を脱ぐ時はかかとを踏まず、必要に応じてしゃがんで手を使う。後ろ向きはNG。
- しゃがむことが難しい場合は、「失礼します」と声をかけて上がりかまちに座る。その際、相手に正面からお尻を向けないよう、体を斜めに。
- 両足を上がりかまちに載せたら、相手にお尻を向けない体勢で膝を突く。片手で靴を外に向けてそろえ、相手から遠い端か、げた箱側に置く。
- スリッパが用意されていれば履く。
帰りの際
- 玄関を向いてスリッパを脱ぎ、靴を履く。
- 靴を履いてからスリッパを家の中に向け、見送りの人がいない側の端に置く。
外開きドアは安全意識の名残?
外開きドアは構造上、ちょうつがいが屋外側にあり、壊せば侵入が可能になってしまう。さらに内開きなら体や重い物でドアをふさげば、侵入者を食い止めやすいという防犯上の理由で、世界的には内開きが選ばれている。日本は靴を脱ぎ履きするスペースを確保するため、外開きを選択せざるを得ないのだが、幸いにも外開きにしても問題ないほど治安が良いことの証でもある。
外開きドアは不用心⁉ PIXTA
さらに不用心に思えるが、そもそも日本家屋の玄関は引き戸タイプがほとんど。一昔前は近所付き合いが密で、お隣に一声かけて鍵をかけずに出掛ける家も多かった。さらに風通しのために、窓や玄関を開けっぱなしにすることも珍しくなかった。
玄関で「外とウチ」を明確に区切る一方で、「向こう三軒両隣」を身内と捉えるのが何とも不思議な日本人の気質なのだ。
かつての日本家屋は通気性のため、木や紙製の引き戸を使った PIXTA
監修:柴崎直人(SHIBAZAKI Naoto)
岐阜大学大学院准教授。心理学の視点で捉えたマナー教育体系の研究を専門とし、礼儀作法教育者への指導にも努める。小笠原流礼法総師範として講師育成にも従事。
文=ニッポンドットコム編集部
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