ドジャース移籍後初のオープン戦出場となった大谷翔平(右)にぴったり寄り添う水原一平(2月27日) CHRISTIAN PETERSEN/GETTY IMAGES
<特別な関係の通訳だった水原一平が......。米プロスポーツ史上最高額で移籍を果たしたスーパースターをめぐる特大のスキャンダル>
球界最大のスーパースターに、突然降りかかったスポーツ賭博疑惑。だが、その関与がどのくらいのレベルだったのかについて、大きな疑問が生じている。
MLB(米大リーグ)ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平は、常習的なギャンブラーで、カリフォルニア州で登録もされていない違法なブックメーカー(賭け屋)に巨額の借金をつくっていたのか。それとも、借金で首が回らなくなった友人の肩代わりしてやった、とんでもなく気前のいい男なのか。それとも、誰かが大谷の口座から勝手に数百万ドルを賭け屋に送金したのであって、大谷は窃盗の被害者にすぎないのか。
少なくとも2つの捜査が進行し、さまざまな報道が錯綜するなか、大谷は3月25日、ドジャースタジアムで会見を開き、自分の口で状況を説明した。それを聞いて言えることは、「つじつまは合っている」だ。
大谷の説明によって、これまで浮上していた疑問の一部が解けた。もちろんまだ不可解な部分はある。だが、この騒動の結果をめぐる賭けがあるとすれば、多くの人は、大谷が日本版ピート・ローズ(監督時代に野球賭博に関わりMLBを追放された元スター選手)ではなく、詐欺の被害者だったことに賭けるだろう。
それは大谷にとって良いことだし(大きなトラブルは避けられる)、ドジャースにとっても良いことだ(大金を積んでとんでもない男を獲得したのではなかったことになる)。また、ファンにとって良いことだし(好感度抜群のスターを心置きなく応援できる)、なによりMLBにとって良いことだ(スポーツとしての信用を維持できる)。
一連の騒動の中心にいるのは、大谷の通訳だった水原一平(39)だ。2017年に大谷がロサンゼルス・エンゼルスに入団して以来、公の場では必ずと言っていいほど大谷にぴったりと寄り添ってきた。
大谷はプライベートを極めて重視する(最近結婚を発表するまで真剣に交際している相手がいることは知られていなかったし、結婚発表のときも妻の名前を明かさなかった)が、水原は大谷のプライベートを知る数少ない人物だったのは間違いない。
大谷側の不手際が騒動を拡大
2月のドジャースのファン向けイベントで、隣にいる水原との関係を聞かれたとき、大谷は「ビジネスの関係で、友達ではないです」と答えたが、その表情は涙が出てもおかしくないほどの笑い顔だった。
ところが、ドジャースがMLB開幕戦のために韓国を訪れていた3月20日、スポーツ専門局ESPNが驚きのニュースを報じた。南カリフォルニアの違法賭博事業者に対して、大谷の名前で数百万ドル相当の送金がなされていたというのだ。
ワールドチャンピオンを目指してドジャースに移籍した大谷だが野球に集中できるのか(3月26日) BRIAN ROTHMULLERーICON SPORTSWIRE/GETTY IMAGESアメリカのスポーツ界で最も市場価値の高い選手が、そこまでディープに違法賭博に関わっていたのが本当なら、MLBにとって特大のスキャンダルになる。最悪なのは大谷が野球賭博に関わって八百長を働くことだが、そうでなくてもMLBの信用に傷が付く。違法賭博に関わっていたのなら、大谷が脅迫されやすい立場になることも問題だ。
ただ、今回の一件は大谷陣営の不手際が騒動を大きくした側面もある。
現時点ではっきりしている数少ない事実の1つは、水原が賭博問題を抱えていたことだ。その水原が、大谷のチームが雇った危機管理専門の広報担当者のゴーサインを受けて、ESPNの電話インタビューに応じ、スポーツ賭博で少なくとも450万ドルの借金を抱え込み、その肩代わりを大谷に頼み、大谷はそれに応じたと語った。
ESPNはその後、韓国での試合後にクラブハウスで、大谷が水原の借金の肩代わりをしたことをドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長がチーム全体に伝えたと報じた。
するとその日のうちに、大谷のアメリカの弁護団が「メディアからの問い合わせに対応する過程で、翔平が巨額の窃盗の被害に遭ったことが判明したため、当局に通報した」と声明を発表した。
一方、ドジャースを解雇された水原は3月21日にもESPNの電話インタビューに応じ、自分が嘘をついていたとし、大谷は自分の賭博について何も知らなかったと語った。水原はいくつかの質問に答え、いくつかの質問には回答を避け、ようやくここ数日で最も賢いことをした。メディアに話をするのをやめたのだ。
専属通訳の大きすぎる役割
だが、大谷に近い人たちの説明がコロコロと変わったため、大谷自身の関わりについて疑問が指摘されるようになったのは無理もない。危機管理の広報のプロがついているなかで、大谷のプライベートを知る人物がメディアのインタビューを受け、大谷が自分の借金を肩代わりしてくれたと話したことが嘘だった、などということがあり得るのか。
もしも水原が大谷の口座から何百万ドルも盗んだのが本当なら、なぜ韓国での開幕戦で2人はあんなに仲良くしていたのか。また大谷と水原が韓国にいるのに、アメリカにいる大谷の弁護団はどうやって「真相」を突き止めたのかという疑問もある。
だが、大谷自身の会見によって、これらの疑問はある程度解消した。
大谷陣営の説明が一変したのは、水原の不誠実な通訳に頼り切っていたためだ。大谷によれば、水原は「大谷とコミュニケーションを取っている」とし、「(大谷が)自分の借金を肩代わりした」という嘘を代理人らに伝えていた。この嘘が世間に広まったのは、大谷陣営が雇った広報の専門家が、嘘つきの張本人にメガホンを渡したせいでもある。
大谷と水原が試合直前まで仲良くしていた理由も分かった。大谷は当時、水原の賭博問題も、自分の口座から送金がなされていたことも知らなかった。事実を知ったのは、試合後に水原がチームに賭博問題を説明した後、改めて大谷と一対一で話をしたときだった。
当事者たちが韓国にいる間に、アメリカの弁護団が真相を突き止めたのは、大谷がすぐに連絡したからだ。水原は大谷と2人きりになったとき、自分に巨額の借金があり、大谷の口座から賭け屋に送金したことを告白したが、大谷は「やはりおかしい」と思い、「ドジャースの関係者や弁護士に連絡をした」と語っている。
なぜ水原が大谷の口座にアクセスできたのかといった疑問は残るが、これは捜査で明らかになるだろう。
それにしても驚きなのは、これまで矛盾する情報が飛び交っていたのは、全て水原が原因だったことだろう。彼は賭博依存症だっただけでなく、今回の問題について大谷が見聞きする情報を自分に都合良く管理できる立場にあった。
大谷がプライバシーをかたくなに守ってきたせいもあり、痛快なホームランを放ったり、打者を三振に仕留めたりする以外に、彼がいったいどういう人物なのかはほとんど知られていなかった。テレビの解説者も、彼がスポーツ賭博をやるような人物なのか、はたまた友人の借金を肩代わりしてやるような人物なのか、コメントしようがなかった。
大谷は今回、スポーツ賭博をしたこともなければ、誰かに賭けをさせたこともないと明言した。自分の口座から水原が賭け屋に送金をしていたことにも一切関わっていないという。もちろんそれは大谷の説明であって、真相ではない可能性もある。
だが、広報のプロに囲まれた若くてリッチなスポーツ選手が、自分の陣営から発信された嘘に翻弄された1週間の終わりに、改めてマイクに向かって嘘をつくなどということがあり得るだろうか。しかもそれが嘘だったと分かれば、スポーツ選手としてのキャリアも、法的立場も大打撃を受ける可能性がある。
大谷が3月25日の会見で話したことが100%事実でなかったとしたら、彼は通訳以外に変えなければならないことがある。
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