放送中のドラマ『西園寺さんは家事をしない』。原作は7月11日に最新5巻で完結した、人気漫画家・ひうらさとる氏による同名コミック(講談社「BE・LOVE」連載)だ。仕事はバリバリするが、家事は一切しないと決めている主人公・西園寺一妃(松本若菜)の家は、“家事ゼロハウス”を謳った特別な一軒家。“偽家族”の楠見俊直(松村北斗)と娘・ルカ(倉田瑛茉)と一緒に暮らす中で、同セットにも少しずつ変化が表れている様子。細かなこだわりを美術プロデューサー・中村綾香氏と、デザイナー・大三島弘女氏の話からひも解いてみよう。
家事ゼロハウスは回遊動線がキモ?
西園寺さんの住む家はとことん家事の簡略化を目指すため、特別リフォームが施されている中古の一軒家だ。そんな同セットには、西園寺さんが快適に暮らすための工夫がたくさん。中村氏によると「家全体をグルっと回遊できる間取りにこだわっていて、洗面所からランドリールーム、脱衣所、ウォークスルークローゼット、寝室までが一連の流れになるようにしました」と、日々の西園寺さんの生活動線を考え抜かれた造りになっている。洗濯物は洗濯機から出して畳まずそのまま…な西園寺さんのために、「クローゼットは広めに作り、クリーニングが終わったものもそのまま掛けられるようになっています。中がぐちゃぐちゃでも扉を閉めてしまえば隠せるように」と、ここでも生活を細部までイメージしている。
掃除はルンバにお任せの西園寺さんなので、「ルンバを効率的に働かせるため、バリアフリーは絶対条件で、ほぼ全ての扉は吊り戸にしました」。もちろんテレビ台、ソファ、ベッドの下などに全てルンバが入るのも計算済みだ。
楠見&ルカとの“偽家族”生活に温かみを!時間経過で変化した部分とは?
物語序盤に引っ越したばかりの頃は少し殺風景にも思えた西園寺宅だが、ストーリーが進むにつれて変化した部分にお気づきだろうか。「楠見親子と一緒に暮らすことになって、少しずつ室内が色鮮やかになっていく様子も表現できたらいいなと。キッチン周りは最初は電子レンジしか置いてありませんでしたが、楠見親子と暮らすことになって食器や家電も揃いました」と、生活感の変化を語る中村氏。第6話の家出騒動で剥がされてしまったが、ダイニングテーブルのルカの定位置には4歳の子どものイタズラらしく、かわいらしいシールも貼られていた。最新のセットでは、テレビ台の周りにルカのおもちゃがさらに増えているのにも注目したい。
賃貸スペースは楠見の真面目さを表す四角い空間に!
「レスQ」のセットインタビューでも紹介した、“西園寺さんから広がる輪”をモチーフにした丸の家具たちは、西園寺宅にもしっかり取り入れられている。「こちらも照明や鏡などあらゆるアイテムを丸いもので揃え、キッチンに接しているダイニングテーブルに関しては、カウンターに合わせて造作しました」と、異なるセットでの世界観の作り込み方を披露してくれた。
では、楠見親子が暮らす賃貸スペースはどうだろうか。丸が特徴的な西園寺宅とは違い、こちらは楠見のきっちりとした性格を表すように、四角いアイテムが多い印象だ。大三島氏は、「4歳の娘と暮らす部屋なので、子どもがぶつかりそうな家具の角は最低限丸くしていますが、第2話で楠見が自ら貼った防音シートは四角を強調させています」と、他セットとの違いを明かす。また「西園寺宅とはところどころお揃いの仕様になっていますが、人に貸し出すことを想定してリフォームされている部屋なので、どんな人が入居してもいいように癖のない色味に」と、入居者への配慮も。「同じ世界観ではありながら、一目見た時にどこで撮っているかがわかるように心掛けています」と、ドラマならではの美術テクニックが飛び出した。
自宅が火事になってしまった後に引っ越してきた楠見親子。「慌てて生活に必要なものを揃えた設定なので、小物類はホームセンターなどで買えるものばかり。皆さんも見たことのあるアイテムが多いのではないでしょうか」と、小物選びにも余念がない。部屋を見渡すと、楠見の手書きで書かれた整理整頓用のラベルが目立つほか、カレンダーには保育園のスケジュールもしっかりと記載されている。犬好きなルカのために集められた犬の模様も多くあるが、楠見の趣味と思われるものは一切ないのも特徴的。楠見がどれほどルカ中心の生活を送っているかが垣間見えるセットになっている。
ワンルームで一口コンロを備えたこの賃貸スペース。一見すると十分な設備が整っているのだが、父と娘の2人の暮らしにとってキッチンは少々手狭ではある。しかし、この不十分さが2人が西園寺宅でご飯をともにする理由づけにもなっているのだ。
西園寺さんが注ぐリキと「シルバニアファミリー」への愛!
もう1つ西園寺さんが愛してやまないものといえば「シルバニアファミリー」。推し活をしている人なら誰もが夢見る趣味部屋に、所狭しと西園寺さんが集めたコレクションが並んでいる。「『シルバニアファミリー』を販売しているエポック社が協力してくださったおかげで、たくさん飾ることができました。実際に反響をいただくまでは西園寺さんの“シルバニア愛”が強すぎではないかと正直不安でしたが、こんなに受け入れてもらえるとは(笑)」と、喜びの悲鳴を上げる。
各コレクションのレイアウトを行ったのも美術スタッフ。「途中でエポック社の方にアドバイスいただきながらみんなで飾ったのですが、この量は大変でした。でも私も『シルバニアファミリー』を持っていたので、飾りだしたらやっぱり楽しくて! 童心を思い出しましたね」と、中村氏が制作を振り返る。ちなみに、この部屋には全部で12体の西園寺さんのアクリルスタンドがあるそう。劇中で全て見つけることができるだろうか。
普段はクールな西園寺さんがラブリーな「シルバニアファミリー」を推していることに人間らしいギャップを感じるが、その点はセット全体の制作にあたっても話し合いが行われた部分だという。「かわいらしい趣味に合わせた内装にするか悩んだのですが、クールでかっこいい性格を最優先で表現するために監督とも相談してテイストを決めました。隠している一面なので、ある意味普段の印象とは違ってもいいのではないかなと」と、丁寧に設定を詰めている。
家は住む人を表す鏡。西園寺さんのカッコよさや温かさ、そして決して完璧ではない生き様を表した家が、キャラクターの成長とともにどう変化してくのか。どんな場所になっていくのかに注目したい。
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