南仏カマルグの塩田には塩の山が築かれ、登ることができる=2024年8月17日、尾形有菜撮影
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 パリ夏季オリンピック・パラリンピックの舞台であるフランスは、2030年の冬季五輪・パラリンピックの開催国でもある。仏南東部のプロバンス・アルプ・コートダジュール地域圏が、東部オーベルニュ・ローヌ・アルプ地域圏とともに招致に成功した。

 プロバンスは西にローヌ川、東にイタリアとの国境沿いに延びるアルプス山脈、南に地中海と自然に囲まれた地域だ。日本をはじめ世界中から観光客が訪れる。

 記者は8月中旬、プロバンス・アルプ・コートダジュール地域圏と西隣のオクシタニー地域圏を巡る、クロワジーヨーロッパ社のリバークルーズにフランス観光開発機構の紹介で参加した。伝統を重んじ、美しい景観に恵まれた南仏の魅力を紹介する。

カキの名産地、「最も美しい村」も

リバークルーズの船のデッキにはジェットバスのほか、椅子やテーブルが常設され、運行中や停泊中にくつろげる=南仏セートで2024年8月15日、尾形有菜撮影
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 リバークルーズは6泊7日。モンペリエの西方にある港町セートで乗船し、ローヌ川をさかのぼる。地中海に注ぐローヌ川の分岐点に位置する都市アルルが最終目的地だ。

 クルーズ船「アンマリー」号での今回のツアー参加者は20人ほど。スタッフは船長、シェフら計6人と小規模ながら、昼食と夕食は本格フレンチだ。前菜、主菜、デザートの3コースメニューを毎回堪能できる。

 パスタや米を使った主菜も出て、どの料理もフランス産ワインによく合う。観光場所では地元のガイドらが英語やフランス語で案内してくれる。

クルーズの食事は朝食はビュッフェ、昼夕食は前菜、主菜、デザートの3コースメニューが堪能できる。写真は夕食の主菜=2024年8月19日、尾形有菜撮影
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 セートにほど近いトー湖は、フランスの貝類養殖の主要拠点だ。塩分濃度が高く、水温も海より高く、カキやムール貝、ハマグリなどが育てられている。

 近くの飲食店では養殖の生貝を楽しめる。少し塩気のある生ガキはレモンを少量かけて食べると絶品。カキ養殖の盛んな漁村ブジーグにあるエタンドトー博物館では養殖の歴史などを学べる。

 内陸部のサンギレームルデゼールも訪れた。「フランスの最も美しい村」の一つに数えられる渓谷の街だ。

「フランスの最も美しい村」の一つ、サンギレームルデゼールはモンペリエ近郊にあり、中世の景観が残る=2024年8月15日、尾形有菜撮影
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 村の象徴であるジェローヌ大修道院は804年に創立された中世ロマネスク芸術の至宝。「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の一部として国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されている。

 小さな石畳の路地には、中世の外観を保ちながら石造りの住居や雑貨店、アトリエなどが点在する。歴史を感じさせる街中は静穏な一方で、渓流では川下りや水遊びを楽しむ人も多い。

圧巻の「カマルグ」

 ローヌ川河口の三角州地帯には、大湿原カマルグが広がる。その西端にある城塞(じょうさい)都市エグモルトは、ルイ9世が十字軍の拠点として13世紀に建設した。

塩の産地として知られる南仏のカマルグ。ピンク色の広大な塩田が広がっていた=2024年8月17日、尾形有菜撮影
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 街は全長1634メートルの城壁に囲まれ、礼拝堂がそびえ立つ。中心部の広場にはルイ9世の銅像があり、土産物店が並んでいてにぎやかだ。

 エグモルトの名産は塩。郊外には幅13・5キロ、奥行き18キロの広大な塩田がある。その歴史は紀元前4世紀ごろまでさかのぼるという。初春に運河を使って引いてきた海水を塩田に張り、年に一度、9月に収穫される。

 街の名は「死んだ水」「よどんだ水」を意味するラテン語が由来だ。微細藻類の影響で塩田の水は濃いピンク色。列車に乗り、一面ピンク色の塩田を一望することができる。

 塩田には藻類を食べるエビのような節足動物アルテミアがいる。そのアルテミアを好む野生のピンクフラミンゴが生息し、ラベンダーをはじめとする200種ほどの植物も自生している。

南仏カマルグは湿原と半野生の白馬で知られる=2024年8月18日、尾形有菜撮影
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 カマルグの中心地サントマリードラメールにある「ポンドゴー鳥類公園」には、さまざまな野鳥が飛来する。公園の職員が毎日数えているという数百羽のピンクフラミンゴが、餌をついばんだり片足立ちで眠ったりしている姿を間近で観察できる。周辺には闘牛を育てる牧場があり、カマルグ特産の白馬もあちこちで放牧されている。

今も残るゴッホの「モデル」

ゴッホが晩年を過ごしたアルルには、絵のモデルとなったカフェなどが今も残る=2024年8月19日、尾形有菜撮影
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 旅の終着地点アルルは、画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90年)ゆかりの街として知られる。

 ゴッホは亡くなる前年までの約1年3カ月、アルルに滞在し、200点以上の作品を描いたとされる。「夜のカフェテラス」「ローヌ川の星月夜」のほか、「ひまわり」のシリーズなど多くの代表作を残した。現地のガイドは「ゴッホの絵のモデルとなったカフェや風景は今も残っており、巨匠の軌跡をたどりながら街を散策して楽しむこともおすすめ」と語る。

 石畳が敷かれた市街地は路地が入り組み、中世の雰囲気が色濃く残る。1世紀末ごろの古代ローマ時代に建造された円形闘技場をはじめとする「アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物群」は世界文化遺産に登録された。

ユネスコ世界遺産に登録されている、ローマ時代に建造された南仏アルルの円形闘技場=2024年8月19日、尾形有菜撮影
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 歴史、芸術、自然、食――。スポーツのみならず、南仏は多様な楽しみ方ができる地だ。【アルルで尾形有菜】

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